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近年、人里離れた各地方で「地域密着型カフェ」の出店が増えていることをご存知でしょうか?

その名の通り、密着した地域の名産品を使った料理等を提供するカフェで、地元の方のみならず、観光客の交流の場にもなります。

2015年に話題になったドラマの一つに『ナポレオンの村』(TBS系)がありましたね。存亡の危機に立たされた限界集落に話題のレストランを開くなど、唐沢寿明演じるスーパー公務員が獅子奮迅の活躍をするドラマです。しかし、実際に地域密着型の飲食店をつくるとなると、ドラマ以上に厄介な課題が次々とあり、入念な準備が必要となるのです。

今回は、現実的な使えるリソース(人員・食材・各種スキル・環境)を生かした“地方での店舗運営ノウハウ”について、株式会社アッサンブラージュの料理講師/飲食店コンサルタントである高窪美穂子氏にお話を伺いました。


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株式会社アッサンブラージュ 高窪美穂子氏インタビュー

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失敗から学んだ地域性を知る重要性

— 2012年に高窪様自身がフードプロデュースを依頼され、鳥取県・東郷湖畔に「Café ippo」がオープンしましたが、何故その地域に店舗を出店することになったのでしょうか?

高窪:理由としては2つあります。

1つめは東郷湖畔はノルディック・ウォークを推奨したウォーキングリゾートの中心地として県内で位置づけられているのですが、「その中心拠点としてカフェを作りたい」という意向をもったNPO法人のご担当者を株式会社エンファクトリーさんから私の方にご紹介頂いたのがきっかけです。

もう1つは、出店場所の近くに漁港があるのですが、そのNPO法人さんが「魚育」という魚を知ってもらう活動に力を入れていたので、そこで獲れた魚を使って「地元の魚を使ったカフェで出すメニューを作って提案してほしい」という依頼があったからなんです。

— なるほど。では、ご当地で獲れた魚に合わせたレシピを作ったわけですね?

高窪:そうですね。魚、ということでしたので、最初は和食でレシピ開発をしました。私は自宅で料理教室もしているのですが、そこに「Café ippo」のスタッフを呼んで、私が調理して東京で開催した提案レシピの試食会でご了承いただいた魚料理と副菜の和食について調理指導をしました。

でも、予期せぬ事態が起こりました。指導していたスタッフは2人いましたが、1人は調理師免許の資格を持ってはいてもほとんど調理ができなくて、もう1人のホールとの兼務スタッフは全くの調理未経験者、研修に来たふたりともほぼ調理初心者だったことです。かなり訓練しましたが、メインで調理をするはずだったスタッフは店で働けるレベルになれなくて、現地店舗で開催した地元の有力者が集まった試食会で料理をきちんと出すことができず結局辞めてもらうことになりました。

— それはオープンよりどのくらい前のことですか?

高窪:1ヶ月くらい前でした。やはり東京と地方の地域性の違いをもっと理解していればよかった、という反省点が自分にもありました。東郷湖畔は、地縁が色濃く残っている場所なので、東京での「普通」や「当たり前」が全て通用するわけではありませんでした。その土地の特性を予め知ってきちんと理解することは重要だなと、地方でお仕事させていただく場合の教訓とともに大きな勉強になりました。

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出典:http://www.e-assemblage.jp/

 

地域の“食のレベル”に合わせたレシピ作り

— キッチンスタッフに辞めてもらったということですが、その後はどのようにして人材を集めたのですか?

高窪:もともとこの案件は、NPO団体の方が雇用を生むために助成金をもらってやっていた仕事なんです。その団体の代表者の方が自分の友人でもある地元飲食店の経営者の方に「人材を貸してくれ」と頼んでなんとかオープン2〜3週間ほど前にキッチンスタッフの方が再度決まりました。

— オープン直前にスタッフがかわったのはきつかったですよね。

高窪:はい。出店場所も市街地区から離れたところだったので、その地域にしては高めでオシャレな感じでその店を目指してきてもらえる、そんな店にしないと、集客できずに生き残るのが難しいのではないか、と考えました。地元の方にも愛され、観光客にも注目していただけるようなレベルの高い店舗を狙うには、初心者のようなスタッフを一から育てるのに1年以上はかかります、長い目で見てください、とある程度の状況がわかった時から何度もお伝えしていました。

本来であれば時間をかけてスタッフを育てるべきなんですが、とはいえ、助成金絡みだと単年度ごとの予算付けで来年度に予算がつくかどうかがわからないので、時間を費やしたくても費やせない場合も多いんです。だからスタッフのことを考えると本当に可哀想だったなと思っています。

— それだけ土壇場でスタッフが変わってレシピはどうしたのですか?

高窪:本当にラッキーなことに、ベテランの人がキッチンに入ってくれたのでなんとか間に合いました。それと同時に、最初にやろうとしていた和食も地元の方を集めた試食会でスタッフが失敗するという事態になり「これではダメだ、直前だけれど変えてもらえないか、パスタとか洋食とかになりませんか」という急なご依頼があったのでキッチンスタッフも変わるし、こうなったらやるしかない、ということで3週間前にメニューを全部変えました。

変更後のレシピは、パスタや洋食をというご希望に沿って「ガスパチョ風の冷製パスタ」と、この地域で獲れたハマチを使った「ハマチの香草パン粉焼き~フレッシュトマトソース~」。地元のブランドポークと特産の白ネギ、白ネギのネギ酢を使った「ポークジンジャー」のワンプレートのメニュー3種類に絞りました。

飲食店が乱立する東京に比べて、新しい店舗への注目度の高い地域ですので、食をとりまく環境とリゾート的な立地に合わせたメニューへ変更しました。

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地方での店舗存続に必要な2つの要素

— では、地方で人気店を作るために、店の内装やメニュー、もしくはPR・宣伝方法も含めて、特に必要な要素は何だと思いますか?

高窪:地域の嗜好を知ることは大切だと思います。今回の例で言えば、柔らかめの食感が好まれる地域だったので、最初はご飯を固めに炊き上げるように指導していましたが、地元のお客様のお声をいただいて柔らかめに水加減をするように変更したり、パスタもいつもよりも少しだけ柔らかめに茹で上げたり、というように微調整しました。

観光客だけをターゲットにしたお店だと続かないんですよ。地元の方がちょっとした目的で来店してくれるような、地域に愛される店にしないといけないなっていうのを意識してメニュー構成を考えるようにしました。

— それは例えば、メニュー以外のことに関しても当てはまることなのでしょうか?

高窪:そうですね。例えば接客については一定のレベルはもちろん必要ですが、さらにもう一歩進んでそこの地域の接客レベルよりもワンランク上のサービスを提供することを目標にできれば、と思います。「あの店っていい意味で他と違うよね」って、味でも接客でも「行きたい!」って思われないと立地的にも存続は難しい案件だったと思います。

私がご縁をいただいて何度かお手伝いさせていただいたアル・ケチァーノの奥田政行シェフのレストランで働いてるキッチンスタッフは、シェフのスピリットを受け継いでいてすごくキッチリされてるんですね。私もそのような教育をしたかったんですけど、さまざまな問題もあってそこまでのレベルに持っていくことができなかったのは本当に残念でした。

それまで販売員をやっていた子がいきなりホールにシフトチェンジする、などの状況でしたので、スタッフも大変だったと思います。でも、スタッフたちはとても純粋で一所懸命なメンバーばかりで、私の厳しい指導にも持ち応えて頑張ってどんどん伸びていたので本当に素晴らしかったし、彼らと一緒に仕事ができたのは私に取ってもたくさんの学びがありました。そういった伸び代のたくさんあるスタッフたちを育てるためには、運営母体側が教育時間を割けるだけの体力があるかどうかっていうのは重要ですね。

 

スタッフが独立できるようにするための教育体制

— それでは最後になりますが、地方では限られたリソースで運営するしかない状況のなかでされた施策の失敗談や成功体験をお聞かせ願えますか?

高窪:まず、「あれもこれも手を出さない」ということが大事だと思います。やはり、1つの食材をいかに見せ方を変えて全部使いきるかというやり方じゃないと無駄が出てしまいます。なので、1つひとつの食材を大切にするということです。

それと、実際に地元の魚を使っていたので、漁の状況によってその日に使う魚が仕入れられるかどうか、もありましたし、当然のことですが価格変動も大きかったです。食材が入らなかった時に臨機応変に対応できるレベルのスタッフが1名しかいなかったので、そのスタッフのみに大きな負担がかかったのも気の毒でした。やはり、複数人、ある程度できるレベルのキッチンスタッフがいないと辛いです。

— スタッフ育成のための目標はどのように設定するのが一番なのでしょうか。

「自分で商品開発できるまで育てること」が一つの指標になると思います。私がその後関わらせていただいた東京のお店では、スタート時点ではベテランの店長がメインで私の指導を受けて、それをベースに商品開発していました。そして途中からは店長からキッチンスタッフに商品開発を徐々に移行していきました。スタッフ自身がまず自分で商品を考えレシピを試作し、レシピ試作で上手くいかない部分を店舗訪問した際に面談しながら解決する形で2年近く指導しました。自分たちだけでお客様にご提供できるレベルの商品開発ができるようになるためには、店内の教育体制は本当に大事です。

助成金のように行政が絡んでいる案件では、成果をだすまでのタイムリミットとの兼ね合いもあるので難しい部分もありますが、その地域にある独特の風習や、地元の人たちの食習慣の傾向を頭に入れて、客観的な視点で必要なことだけをアドバイスして自分たちの足で立ってもらえるよう、自立できるようになってもらうことが何よりも大切です。

そういったスタイルで彼らにたくさん引き出しを作ってあげて、私が手放しても自分たちだけで自立して、更に進化しながら店舗運営ができるようにするのがコンサルタントとして一番大切なんだと本当に肝に銘じた案件でした。

— これからの地域開業層に向けてとても参考になる体験談でした。本当にありがとうございました!

 

[取材・編集:OMISE Lab編集部]


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店舗BGMアプリ「モンスター・チャンネル」が運営する店舗運営情報magazineの編集責任者。