入場料1500円の本屋「文喫」で聞いた、お客様へのおもてなしのヒント

東京・六本木にあった「青山ブックセンター」。多くの本好きに惜しまれつつも閉店しましたが、その跡地に新しいコンセプトの本屋ができました。その名も「文喫」。本好きでもそうでない人でも楽しめる店舗となっています。

今回は、文喫を運営する日本出版販売株式会社(日販)営業本部の有地和毅氏にインタビュー。文喫がおこなっている「おもてなし」の秘策についてお聞きしました。

そもそものコンセプト設計に加え、内装を中心とした雰囲気づくりやメニューの選定など……愛されるお店になるためには、いろいろな“おもてなし策”を考えなければなりません。さっそく、お客様が集まる店舗経営のヒントを探っていきましょう。

 

ネイルサロン経営の皆様へ まだCDなんですか?
 

文喫とはどのような本屋?

――まず、文喫とはどのような本屋なのか教えてください。

有地和毅氏(以下・有地氏):文喫とは、「本と出会うための本屋」をコンセプトとしている書店です。入場料1500円(税抜)を払えば、営業時間(9:00~23:00)内のうち何時間でも居ても良く、コーヒーと煎茶がおかわり自由です。軽食も揃っており、「牛ほほ肉のハヤシライス」や「とろけるカスタードプリン」などが用意されています。今(2019年3月現在)のイチオシメニューは「コーヒーゼリー」です。

本の並び方もこだわっています。たとえば旅行書の棚では、パリのガイドブックのすぐ隣に『江戸とパリ』という本が並んでいたり、その隣にはパリを舞台にした小説が置いてあったりするなど、あえて違うジャンルの本を並べています。「本と出会うための本屋」が文喫のコンセプトですので、「へえ、こんな本もあるのか」とひとつの興味をきっかけに多くの本に出会って頂けるような工夫です。

店内には本棚が並んでいるスペースのほか、打合せもできる個室スペースの「研究室」や会話もできる「喫茶室」などを用意。長時間ゆったりとさまざまなスタイルで過ごせるような居場所を目指しています。

――コワーキングスペースなどのように、作業スペースを求めて来店される方もいらっしゃるのでしょうか?

有地氏:いらっしゃいます。デザイナーの方が多い印象がありますね。インターネットでは見つけられないデザインを求める方もいらっしゃいます。作業しながらすぐに資料に当たることができ、その場で買うこともできるという利便性もあるんです。文喫には写真集やデザイン、画集など凝った装幀(そうてい)の本もありますので、プロダクトとして魅力のある本を探しに来られる方もいらっしゃいますね。

精度の高い「選書サービス」

――お客様が本を探すのをお手伝いするサービスもあるとお聞きしました。

有地氏:選書サービスですね。お客様のご要望に対していろいろな観点から本をご提案しています。CiNii Articlesなどを使って論文検索をして、引用されている文献を辿ったりもしますし、実際に本を手に取って装幀や質感で選んだりもします。ひとつの事象について、「社会学的」な観点、「哲学的」な観点など角度を変えて、時には小説から写真集に至るまで網羅的に探していきます。

――「もっとマニアックな本を読みたい!」となった時でも、選書してもらえるものなのでしょうか?

有地:もちろん、お客様がより深い内容の本に出会っていただけるようなお手伝いもしています。そのためにも、お客様とのコミュニケーションは大切です。お客様がどんな本を望んでいるのかというのは、実際に話すことで明確になると思いますので。

実際には、「なぜそのテーマの本を読みたいと思っているのですか?」、「その本のテーマの周辺にあるジャンルはいかがですか?」といったように、お客様と会話のキャッチボールを繰り返していくことでニーズを明確化していきます。最終的には1テーマで2~3冊、全部で5~10冊ほど選書して、その中で選んでいただきます。そうすると、意外と本を購入してもらえるんです。

――今はAmazonで本を購入される方もいらっしゃいますが、Amazonとの差別化はどうなっているのでしょうか?

有地氏:Amazonのレコメンド機能は、精度は高いかもしれませんが、中身が見られなかったり、本と本との関係性を把握しづらかったりしますよね。しかし、文喫の選書サービスは、選書したスタッフのコメントを“しおり”に書いて1冊ずつ挟むようにし、「本を選んだ理由」をお伝えするようにしているんです。お客様が「なぜこの本を薦められたのか」をわかるような、きめ細かなサービスを提供しています。

本との出会いに集中してもらうために、「入場制限」をするときも

――文喫では、実際に本を探すという過程が楽しいですよね。

有地氏:文喫では、店内にある本棚の間をさまよっていただくのを重視しています。なので、店内には検索機も置いていません。「あの1冊を探したい」というよりは、本の山の中に入っていって、興味のある本に出会って頂きたいのです。一口に「食の本」と言ってもさまざま。「お寿司の本」を探していたとしても、「発酵寿司」の本が出て来たり、それに関連して「発酵食文化」の本があったり……。発酵に関しても、「科学的」な本もあれば、「文化的」な本もある。そういう「本の連鎖」を楽しんで頂ければと思います。

――展示エリアの中に、黒い表紙の本が並んでいたのを拝見しました。

有地氏:あのエリアは、本のテーマに関係なく「黒い本」だけを並べています。本もいろいろな選び方ができるよ、という一つの問いかけですね。色で分けると、映画、建築、文学などジャンル関係なく同じスペースに並ぶことになるので、興味関心の外にある本に巡り会えます。

――時に文喫への入場制限をおこなう場合があるとお聞きしました。

有地氏:文喫は、「本を吟味していただくための時間と場所を提供する」場でもあります。荷物を抱えながら店内をまわるのではじっくり本を選んでいただけないと思いますので、まずは席を確保してもらうようにしていますね。文喫は席に限りがあるので、入場制限をおこなっています。特に土日祝日は人が溢れてしまうことが多いので、入場制限が設定されることが多々あるんです。店内の密度が高まりすぎないよう、配慮をしています。

席間に余白スペースをきちんと取ったり、横になりながら過ごせたりできるように小上がりのスペースを設けたりしています。椅子もさまざまな種類を用意しておりまして、用途に応じてお客様に過ごしていただける空間を目指しているんです。

食のメニューにもこだわりを

――中でも食の本にこだわりがあるということでしたが、その理由を教えて下さい。

有地氏:文喫が六本木にあるというところが大きいですね。六本木には料理人も飲食店も多いですし、食を楽しみに六本木に来られる人も多いです。ですから、六本木に来たらまずは文喫に来て、本を読んで食に関するモチベーションを高めていただいて、街に出ていく。そういった体験も面白いのではないかと思います。駅も近いので六本木の入り口として受け入れてもらえるといいですね。

――先ほどメニューを拝見しましたが、ハヤシライスをはじめとして軽食メニューも揃っていますね。

有地氏:軽食メニューは、「Soup Stock Tokyo」などを運営しているスマイルズと一緒に作っています。両社のメンバー同士で話し合って「あまり攻めた感じではなく、町にある昭和な感じのスタンダードな喫茶メニューのほうが面白いのではないか」という結論に至りました。

――コーヒーにもこだわりがあるのでしょうか?

有地氏:コーヒーに関しては、「小川珈琲」と一緒にやっています。文喫は長時間滞在していただいてじっくり本と向き合って選んでいただく場です。アイスコーヒーなら時間が経過しても味の変化が小さく、おいしく飲んでいただけるようにする、というこだわりがあります。

コーヒーと言えば、今年の春は「コーヒーゼリー」を推していこうと考えています。文喫のコーヒーは味に自信がありますし、生クリームもたっぷりです。シンプルでくっきりしたフォルムもお楽しみいただけます。ぜひ召し上がっていただきたいと思いますね。コーヒーに関する本は店内の本棚に並んでいるので、それらを読みながら食べていただくのが良いのではないかと思います。本によって食に物語を与えることができるわけです。

――コーヒーにこだわる理由は何でしょうか?

有地氏:コーヒーって、もともと文化的なアイテムだと思うんです。コーヒーは時代の変遷とともにアルコールとも対比されながら、“覚醒”を促すアイテムとして広まっていった過程があります。嗜好品の中でも覚醒っておもしろいですよね。しかもコーヒーがカルチャーの中にずっと存在し続けている。そこに本とコーヒーを組み合わせる魅力があるのかなと思っています。

17世紀半ばからコーヒー・ハウス文化というものは連綿と続いていて、コーヒーのある場は社交場でもあったのです。人が集まる場にはずっとコーヒーがありましたし、これからもそうでしょう。文喫に人が集まってきて、会話が発生する際に媒介となる飲み物としてコーヒーが機能してくれればいいですね。

本を取り入れた新業態の店舗を経営する際のヒント

――最後に、文喫のように本を取り入れた新たな業態を展開したい方にメッセージがあれば教えてください。

有地氏:本があれば人は集まりますし、本と出会うことで人と出会うこともできる。人と出会うことで本と出会うこともできます。「読む」だけではない本のいろいろな使い方を提案することで、新たなビジネスの可能性が広がります。そこから共通の価値観や、人の集まりがあまれていけば、リアルな場所としての強さも生まれてくるのではないでしょうか。

たとえば本は自己を表現するツールとしても使うことができます。「犬が好きです」と言うだけでは、詳しいことはわかりません。でも「かわいい柴犬の写真集」と「動物行動学のハードな研究書」どちらを提示するかで、興味関心がどこにあるのかがはっきりわかりますよね。本選びには、ある種のパーソナリティが表れるんです。

名刺代わりに本を使うことで、コミュニケーションが円滑になったりもします。そんな目的に沿った本と出会うための場を作ることができれば、新しいニーズを喚起できるのではないでしょうか。本をどう機能させるかによって、本のある場のおもしろさは大きく変わってきます。そこにこそ本を取り入れる業態のおもてなしのヒントがあるように感じます。

――文喫はまさにそれを体現しているのですね。有地さん、お忙しいところ取材させていただき、ありがとうございました!

 

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