FABTONE代表、寿福知之に聞く「空間と音楽」

お店を経営するにあたり、さまざまな工夫が必要となります。そのひとつに空間演出がありますが、その空間をよりよくするための演出に音楽があります。

味覚、視覚、嗅覚、触覚に加え、お店の聴覚を司る店内BGMはどのように選択することで効果が期待されるのでしょうか?

今回は、音楽レーベルFABTONE Inc.の代表取締役でありながら、飲食店も3店舗経営されている寿福 知之さんに音楽と店舗経営についてお話を聞きました。寿福さんの音楽遍歴から数多くのヒット作品を生み出したメディアファクトリー時代、そして空間における音楽の効果について、ざっくばらんにお聞きしました。

タメになる至言から「本当ですか?」と思わず聞き返したくなるアイデアまで随所に散りばめられているので、肩の力を抜きながらお読みください。

放送部を乗っ取った高校時代

<寿福さんが経営されている「HANABAR」にてお話を伺いました>

――まず寿福さんのバックグラウンドをお聞きします。現在では飲食店を3店舗経営しながら、音楽レーベルFAB TONEの運営をされています。音楽の興味をもったきっかけは?

寿福 知之氏(以下・寿福氏):近所にロン毛でロックバンドやっている人に色々聞かされたのがきっかけですね。大体メタルを聞かされていたんですけど、その中にニルヴァーナがあって、「これはかっこいいな」と思いました。そこから自分でもディスクユニオンとかいって、お金がないので安い中古のCDを買ったり。

――グランジロックの全盛ですかね? 中学生くらいの頃でしょうか?

寿福氏:中学の頃でしたね。ネルシャツを着て、カート・コバーンが音楽雑誌で“髪を洗っていない”というインタビューを読んだので、洗うのを止めて親に怒られたり(笑)。

――ミュージシャンの生き方は思春期に刺さりますよね。高校生になってバンドを組んだり、音楽活動を始められたりはしなかった?

寿福氏:高校になると、いろいろな生徒が集まるじゃないですか。ファッションとか音楽とか。音楽好きのグループが集まりだして……

――バンドを組んだ?

寿福氏:放送部を乗っ取りました。

――どういうことですか(笑)

寿福氏:放送部にえげつない部費があると聞いたから乗っ取ってしまいました(笑)。当時(90年代中盤)は、CDやレコードを買うにもお金がかかる。元いた放送部は、ゲームの音楽ばかりかけていたし、乗っ取って月曜日はロック、火曜はハウス、水曜はテクノのようにジャンルを決めて、ライブをやったりもしましたね

――それはさぞかし問題になったでしょうね。高校のときに仲間といろんな音楽を聞いて、“いいものを皆に紹介する”。いわゆるDJやセレクターの役割をしていたということですね。

寿福氏:個人的に好きなものが変わるサイクルが早いんです。ニルヴァーナからオアシスまではUKロックを聞いていましたが、その後はめちゃくちゃ。いまでも新しいものばかり聞いています。

『IN YA MELLOW TONE』の制作背景とは

――いつ頃から音楽を仕事にしたいと意識し始めましたか?

寿福氏:大学に入って、HMVでアルバイトしたり、クラブイベントでDJをしていました。そのときにドイツの「Love Parade(ラブパレード)」(編注:毎年100万人以上の人が世界中から集まる世界最大のレイブイベント。現在は開催されていない)に行ったのは、本当にすごい衝撃で人生を変えるできごとでした。

――就職活動も音楽関係を?

寿福氏:そのときは、新卒で音楽レーベルはかなり狭き門でした。紆余曲折を経て、ホットドッグとクレープのお店を友人とやっているときに、メディアファクトリーという会社の方と知り合い、紆余曲折を経て所属することになりました。

――2度ほど紆余曲折を経てますね。メディアファクトリー時代には、ヒップホップのコンピレーションシリーズ「IN YA MELLOW TONE」など数多くのヒットシリーズを手がけられます。セレクターとしての本領発揮といったところですが、BGMとしての音楽の機能を追求されていた?

寿福氏:意外と好きなことをやらせてもらえていました。でも、大手を比較すると予算はない。そんな中、インターネットで世界中のアーティストとコンタクトが取れる時代になっていたので、名前が知られてなくても良いアーティストならいいじゃないか、と。こだわっていたのは、1曲目を試聴したときに必ず2、3曲目も聞きたくなる音楽を入れるということでした。キャッチーなメロディラインを重視して、間に濃いめのヒップホップを入れるとか

――結果としてヒットしましたが、想定内でしたか?

寿福氏:“売れ方”が想定外でした。“カフェミュージック”や“女性とロマンチックな時間を過ごす”といったシチュエーションで好まれましたね。自分としては、しっかりと聞いてもらえる音楽をセレクトしたのですが、結果としてBGMとしても機能した。海外アーティストなので、日本語じゃない点もありメッセージの主張が薄れたんだと思います。

音楽が空間に及ぼす影響と効果

――ここからは音楽レーベルのオーナーであり、飲食店経営者でもある寿福さんに、空間✕音楽についてお聞きしたいと思います。飲食店にまず音楽は必要なのか? かけるとしたらどのような音楽がいいのか?

寿福氏:難しいテーマですが、ひとつ言えるのは“お店のコンセプトに合わせる”。これが鉄則です。例えば、この店(HANABAR)は、ドライフラワーが店内に飾られていて、メニューも花を使用したり、花にちなんだものばかりです。つまりこのカフェではコーヒーやお酒を売っているのではなく、空間を売っている。ターゲットもおしゃれに敏感な人なので、誰もが知っているような音楽は絶対にかけないようにしています。

――音楽が主張しすぎて空間の邪魔をしてしまう。

寿福氏:コンセプチュアルなお店ならなおさらそうです。お店で音楽が主役になってしまってはいけない。

――でも、音楽がないと寂しい。

寿福氏:お客さんに違和感を与えてしまう。日本人は特に恥ずかしがり屋なので、話し続けているときはいいけど、間が生まれたり、話がとまったときに無音だと辛いですよね。でも、お店のコンセプト次第。静かでゆったりした時間を楽しめて、日本茶を出すようなお店なら無音でもいいし、川のせせらぎとか、空間をもっと楽しめるように演出していくのがいい。

――とは言え、コンセプトとフィットする曲調はわかっていても、音楽に造詣がないとなかなか選曲は難しいですよね。

寿福氏:いまはさまざまな音楽ストリーミングサービスがあるから、BGMとして成立しているチャンネルがたくさんありますよね。基本的にはそれを流していればいいと思います。ただ誰もが知っている曲だとお客さんは気になってしまうのでは、個人的には知っている曲はすくないとうれしいですね。あとは著作権がクリアになっているかどうか

寿福 知之が考える、店舗空間別の音楽ジャンル

音楽の機能やBGMと空間について寿福さんにお聞きしてきました。ここからお店の形態によって、合う音楽ジャンルは何? と疑問を壽福さんにぶつけてみました。音楽✕空間の考え方の参考にしてみてください

Q.ロックはどのようなお店にフィットすると思いますか?

寿福氏:高めのバーではなくて、ブリティッシュパブみたいな、ガヤガヤしたお客さんが騒ぎに来ているところがいいと思います。こういうお店ならお客さんの波長と音楽性も合うし、例え有名な曲がかかっても気にならない。むしろ盛り上がったりもする(笑)。日によってビートルズだけとかローリング・ストーンだけとかを打ち出してもいいかも。また来たくなりますし。

Q.ジャズはどのようなお店にフィットすると思いますか?

寿福氏:メロウにもなればアップテンポにもなりますし、ボーカルもあればないものもあるので、ジャズは難しい。ジャズ自体がコンセプトになりうるので、ジャズバーやジャズ喫茶という形態が生まれるくらいです。当然、ジャズ好きが集まる。ただ、以前に僕は雑誌「ラーメンWalker」と組んで、「ラーメンジャズ」というCDを作ったことがあります(笑)。実際にジャズがBGMになっているラーメン屋は多いんです。ラーメン屋は店主の個性が出ますよね。B’zがひたすらかかっているとか。僕のラーメン屋のコンセプトはハワイなので、ひたすらハワイアンをかけています。なので、あえて焼き鳥屋さんでジャズがかかっているとか、コンセプチュアルで面白いですよね。

Q.ヒップホップはどのようなお店にフィットすると思いますか?

寿福氏:ヒップホップはBPM(編注: Beats Per Minuteの略でテンポの単位)はすごい心地いいんですよね。でもラップが入るとBGMになりにくい。トラックだけかけるなら、ジャジーなものとかカフェとかにも合いますね。特に日本語ラップが入ると相当コンセプチュアルにやらないと厳しい。(しばらく考えて)……おにぎり屋さんに日本語ラップはありかもしれない。

Q.ハウスやテクノはどのようなお店にフィットすると思いますか?

寿福:00年代後半のハウスブームのときは、カフェでもハウスはよくかかっていましたが、早いテンポってご飯を食べるときに合わないんですよね。どうしても忙しくなってしまう。もし、ハウスやテクノのようにテンポが早いものをかけるなら、ボリュームを小さくするなど工夫が必要ですね。でも、ミニマル・テクノ(編注:最低限の音数で同じフレーズが繰り返される)がかかるお店は面白いと思う。うどん屋さんとか(笑)。

モンスター・チャンネルであれば、このチャンネル

音楽レーベルFABTONE Inc.

取材地:HANABAR
所在地:東京都豊島区西池袋3丁目30−6
アクセス:池袋駅C2出口より徒歩2分
ランチタイム
11:30-15:00※土日祝日は17:00まで
バータイム
18:00−24:00​