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UberやAirbnbなど、近年急速な成長を遂げているシェアリングエコノミー業界において、「傘のシェアリング」に挑戦する株式会社Nature Innovation Group。雨の日でも手ぶらで外出し、1日たったの70円で傘をレンタルできる「アイカサ」を提供しています。 今回は、株式会社Nature Innovation Group代表取締役の丸川照司氏にインタビュー。これまでの傘のあり方を変えるアイカサの魅力や店舗に導入するメリット、今後のシェアリングサービスの展望について伺いました。

雨の日に必要なのは「傘」ではなく「濡れない」こと

(株式会社Nature Innovation Group代表取締役の丸川照司氏)

――傘のシェアリングに至った経緯、背景を教えてください。

丸山照司氏(以下・丸山氏):傘の年間消費量を知っていますか?年間約8000万本。日本は傘の消費量が世界で一番なんです。仮に傘を500円で購入したとします。8000万本×500円は400億円。400億円って大体スカイツリーを立てる建設費と同じなんです。毎年、傘の消費だけでスカイツリーが建つのってすごいですけど、すごく勿体無いですよね。 スマホが小さくなりキャッシュレス化で現金も必要なくなった現代において、通行人の手元を見るといつまでたっても長い傘だけは持っている。雨が止み晴れても持っている。それってすごく合理性にかけますよね。であれば、シェアリングサービスが普及した現代なら、傘自体をシェアリングできるんじゃないかと思いました。それがアイカサのきっかけです。世界で2番目に雨が降る日本を中心に、傘のシェアリングが成功すれば海外にも発信していけるし、江戸時代から続く「傘を買って捨てる」という当たり前の傘のあり方を変えられるんじゃないか。ただ単純なビジネスという考えではなく、歴史に残るような、文化を変えるものとして、チャレンジする価値がそこにあると感じました。

――傘だけで400億円…、こだわりを持って使い続けることの少ない傘だからこそ勿体無く感じます。しかしそんな背景を知らない一般の方に、傘のシェアリングが普及する見込みはあったのですか?

丸山氏:実は、日本でのアイカササービスの立ち上げ時にはタイミングを見計らいました。それは中国での事例。世界で自転車のシェアリングが最初に流行った中国ですが、その次に注目されたのが傘のシェアリングでした。日本でも自転車のシェアリングが根付き、次に傘がくることが中国の事例から予測できたんです。また、脱プラスチックやSDGsなどが謳われたこともあり、2018年12月、サービスを開始しました。

――中国では15社近くの会社が立ち上がったそうですが、これら既存のサービスとアイカサの違いは何でしょうか?

丸山氏:中国では傘立てがデバイス化されており、デポジット性を採用しています。一方アイカサはQRコードを採用。傘自体にロック機能・QRコードの読み取り機能が全て集約されているため、傘さえあればどこでも展開でき、傘立てはなんでもいいんです。ところが中国の場合、傘立ての方に機能を設けてしまったため、傘立てを作る、設置するのに多額の費用がかかってしまうんです。 国内での傘シェアリング事業はアイカサに統一されており、その展開スピードにも注力しています。シェアリングサービスは数があって始めて便利にどこでも利用できます。展開スピードが遅いと普及しにくいですし、何より場所が限られると不便ですよね。

――スピーディーな展開・普及の拡大に伴い、傘の管理も必要になるかと思いますが、傘の「返却率」はどうですか?

丸山氏:サービス開始にあたり、返却率は1つの課題、ポイントでした。しかし、現在アイカサの返却率は約99%です。国民性や民度の違いと思いますよね? しかし国内で過去に実施された無料の傘貸し出しサービスでは、返却率が30%を切るんです。つまり民度の差ではない。「仕組み」の問題なんです。アイカサの返却率が高いのは、返却されるような仕組みが構築されているからです。

――返却率99%。その仕組み、ぜひ教えていただきたいです。

丸山氏:簡単な仕組みです。みなさんはレンタルDVD屋さんに対して「返却率は大丈夫ですか?」なんて聞かないですよね。みんな返されると思っているし、返すのも当然。そう思う理由は延滞料と個人情報です。 アイカサが提供する24時間70円という料金は、一時的に使うための傘1本を購入する500円に比べたら、安いサービスかと思います。しかし24時間を過ぎた場合、上限こそあるものの、延滞料がかかります。ユーザーとしては返却しないメリットがないんです。また、アイカサはLINEを通したサービスのため、傘を使用している個人を特定できます。何個もIDを作れないLINEを使用することで、不正利用などの個人が特定できる。万が一、返却し忘れた場合も、アイカサからメッセージが送られるようになっています。延滞料金と個人情報の2点が、無料サービスとは違う返却を促す仕組みになっているんです。

雨の日の集客に効果的。店舗の導入メリットとは

(アイカサを導入した店舗の位置が一目でわかるアイカサマップ)

――アイカサを導入する店舗側のメリットを教えてください。

丸山氏:一番は集客効果です。例えるなら、「雨の日の店舗掲載サイト」としてご利用いただけます。現在地付近のアイカサをレンタルできるスポットが表示されるアイカサマップを開くと、どういった店舗にアイカサが置いてあるかが一目でわかるようになっています。多くの店舗掲載サービスでは掲載料がかかってしまいますが、アイカサの場合、傘を置いていただくだけで、店舗情報が一目でわかるようなページの作成が可能です。そのため、店舗の認知拡大、雨の日に店舗に駆け込む動線にもなります。ただ掲載してお客さまを集客するよりも、訴求力が強いといえます。店舗の情報が載っているだけではない、店舗に行く理由が傘によって増えるわけです。店舗のクーポンも発行できるため、雨の日の新しい店舗集客ツールとなります。 また、店舗とお客さまのコミュニケーションツールとしての効果も望めます。例えばお客さまが帰る際に、急に雨が降ってきた場合、店舗としては傘を貸してあげたいですよね。「よかったら借りていきませんか」という店舗とお客さまのコミュニケーションにつながる。お客さまの立場からはアイカサを利用したというよりも、店舗が貸してくれたという意識になるはずです。店舗に対する満足度の向上が期待できます。

――アイカサを導入した店舗からはどのような声を聞いていますか?

丸山氏:実際にご利用していただいている店舗さまからは、わざわざ傘を借りるためにお店に立ち寄っていただけるようになったという声や、クーポンをご利用いただけている店舗さまも多いようです。傘を貸す際のコミュニケーションが生まれた。お客さまが喜んでくれたという声もいただいています。

――雨の日の動線として最適な集客効果が生まれそうですね。アイカサの導入で、店舗側への負担はありませんか?

丸山氏:メンテナンス費を月額980円いただいています。現在はアイカサの普及に向けて、傘立てはこちらで用意しています。店舗情報の掲載やクーポンの発行など、システム面でのサービスも無料です。店舗に置いてある傘が汚いと、お客さまも使いたくないと思うので、メンテナンス料だけはお金をいただいている形になります。

――集客効果の他に、アイカサ導入で期待されることはありますか?

丸山氏:インバウンド対策への効果も望めると考えています。降水量が多い日本ですが、訪日外国人の方がわざわざ傘を持ってくるとは考えにくいですよね。キャッシュレス化など、インバウンド対策が拡大する中で、アイカサの導入が訪日外国人への店舗認知につながるのです。

現在、多言語対応のネイティブアプリ開発とともに、旅行代理店さまとの連携も進めています。海外旅行の入口となる代理店さま側のシステム内にてアイカサが使えるようになれば、より便利にお使いいただけ、店舗への流入率も高まるでしょう。

アイカサが可能にする令和時代の傘のあり方

――現在、観光都市や大都市へのサービス普及率はどの程度でしょうか。今後の普及目標についてもお聞かせください。

丸山氏:アイカサは、日本全国で使えるシェアリングサービスにしていきたいと考えています。日本は傘を買うのではなく、シェアリングするのが当たり前。令和に生まれた子供たちが、大人になった時「昔って傘は使い捨てだったらしいよ。」なんて会話が生まれるサービスにしていきたいと考えています。

現在、展開している箇所は東京と福岡です。今後は観光都市、大都市の全てに広げていこうと思っています。ただし、重要なポイントはユーザー目線であること。車社会の田舎など、ユーザーのニーズがないのであれば無理に拡大する必要はないと思っています。

――まさに人々の暮らしに寄り添ったサービスですね。

丸山氏:「仕方なく」傘を購入する不合理な世界から、アイカサは「濡れない体験」を届けます。より便利にアイカサをご利用していただくために、現在はJRさま、ローソンさまとも提携しています。雨の日でも、沿線に暮らす方々の生活を豊かにするために、電車を降りた後のサービスをアイカサが提供する。地域に密着したコンビニへのアイカサ導入で、急な雨にも対応できる。我々の生活に欠かせない駅・コンビニとの連携によって、アイカサが日本の当たり前になる日は近いと考えています。

――今後、シェアリングサービスに期待することはなんでしょうか。

丸山氏:時代が進み、今はモノに対する人々の価値、所有欲が下がっていると思います。実際に、高い料金を払ってまでビニール傘を買うことに価値を置いている方は少ないですよね。モノに対する価値の低下や、ゴミを減らすという意識の拡大が、モノをシェアして使うという考えを後押ししているのかなと思います。今後はさらに、そんな世界・社会へとシフトしていくでしょう。

――シェアリングサービスの普及に課題はないのですか?

丸山氏:流通のイノベーションは欠かせないです。モノのシェアリングが拡大するにつれて、物流速度や流通コストは下げる必要が出てきます。近年注目されている、移動方法のシェアリングと合わせた物流のイノベーションが起こってくると、いよいよシェアリングサービスが社会のインフラとして根付いてくるんじゃないかと思います。必要な時に必要な場所で利用できるシェアリングサービスが、世界の、日本での当たり前になるためにも、流通のイノベーションは必須の課題だと思いますね。

株式会社Nature Innovation Group「アイカサ」

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店舗BGMアプリ「モンスター・チャンネル」が運営する店舗運営情報magazineの編集責任者。