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「アットホームな雰囲気が理想」、「式の予算を抑えたい」という理由から、飲食店を貸し切っての結婚式やパーティーを希望する人が増えています。そういった人に向けて「ウェディングイベントのための貸切プラン」を設ける店舗もあり、飲食店の新たなサービスの1つとして注目されていることが分かります。

ウェディングイベントを行う店舗は「BGMを1枚のCDにまとめよう」、「当日は音楽を使ったムービーを上映しよう」と考えることでしょう。しかし、ここで気をつけなければいけないのは、「結婚式、パーティーなどで使う音楽の著作権」です。もしも手続きをせずに無断で市販楽曲をCD-RやDVD-Rなどの記録メディアに録音・録画をした場合、著作権の侵害に問われてしまいます。

この時の著作権について、申請手続きを依頼できる団体、「一般社団法人音楽特定利用促進機構 ISUM」(以下:ISUM)が2014年4月よりサービスを開始しました。

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出典:一般社団法人音楽特定利用促進機構 ISUM

そこで今回は、仕組みが複雑な音楽の著作権のウェディングイベントで注意するべきポイントについて、ISUMの代表理事、アレクサンダー・アブラモフ氏にお話を伺いました。

ISUM、アレクサンダー・アブラモフ氏インタビュー

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演奏権、複製権、著作隣接権?ウェディングイベントにおける音楽の著作権

—まず最初に、ウェディングイベントで音楽を使用する際の権利についてご説明をお願いします。

例えばお店で音楽が流れている時に発生するのが、演奏権です。こちらはJASRACなどの著作権管理団体が管理しており、包括契約をした結婚式場や店舗などが決められた使用料を支払えば、音楽を流す権利関係はクリアされます。
もしも店主が自分の持っているCDをお店で流すのであれば、この演奏権で権利処理がされます。ただし、複数のCDから流したい曲だけをピックアップして1枚のCD-Rにコピーすると複製権の権利処理が必要になります。

—複製権は演奏権とはどういった点で異なるのでしょうか。

この複製権は演奏権とは異なり、著作権だけではなく、レコード会社などが持つ原盤に関わる著作隣接権の権利者も権利を持っているため、この両方の権利処理をしなければいけません。店主が自分のCD-Rにコピーをして、自分の家で楽しむ場合には問題はありませんが、お店という不特定多数のお客様がいる空間でコピーした音源を流すとなると、権利処理が必要となります。これは結婚式場でも同じです。


出典:一般社団法人音楽特定利用促進機構 ISUM

—聴く人が不特定多数か、そうでないかという点が重要なのですね。そして、ISUMではその権利処理を代行していただけるということでしょうか。

はい。ISUMは著作権、著作隣接権の複製権の権利処理がオンライン上で簡単にできるスキームを提供しています。我々は、あくまでも結婚式にこのスキームを限定しています。その理由は、ブライダルシーンで音楽を活用した様々な演出が行われるようになり、ブライダル事業者はCD1枚単位で音楽をかけることが大きな負担となってきたなかで、これまで煩雑だった著作権、著作隣接権の処理を簡単に行いたいという声を受けて設立された団体だからです。

—結婚式は全体を見ても様々な場面がありますし、音楽も多く使われますね。

入場やケーキカット、お色直し、退場など、シーンに合わせて選曲されるケースが多いです。それと同時に、新郎新婦のプロフィールムービーにも音楽が使用されますよね。こういった時に使用する楽曲をCD-RやDVD-Rにコピーする場合、複製権が発生します。
著作権はJASRACで権利処理ができますが、難しかったのは著作隣接権です。ブライダル事業者、音響事業者、映像事業者の方々は著作隣接権の権利処理について非常に苦労をされていました。

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—どういった点で著作隣接権は権利処理が難しかったのでしょうか。

著作隣接権とは、楽曲が収録されているCDを制作したレコード会社などが所有する権利です。著作隣接権の使用許諾を得るためには、レコード会社に連絡し、指値で使用料を交渉し、契約を結ぶ、と多くの時間や労力がかかりました。もしもアーティストの所属事務所に著作隣接権がある場合、レコード会社は事務所の許諾もとらなければいけないし、事務所に報告をしなければいけない。レコード会社は使用料をいただいたとしても、手続きをするにあたっての負担が大きかったことを理由に、ウェディングイベントで楽曲の使用をお断りすることもあったと思います。著作権と著作隣接権、両方の権利者の許諾を得て初めて楽曲を複製使用できるのです。

—それでも「結婚式でどうしても使いたい曲がある」というお客様もいらっしゃるのではないかと思います。

ブライダル事業者は、お客様からそう言われると断れません。そうしたなかで、式場で流していたBGMは当日撮影していた映像にどうしても入ってしまいますよね。ただし、著作権・著作隣接権をクリアにしていないため、業者の方で当日の映像に入ってしまった音楽を著作権フリーのオルゴールの音などに差し替えてしまうケースもこれまであったようです。

—BGMが違うと印象も大きく変わってしまいますね。

新郎新婦も式当日の映像を観て「こんなはずじゃなかった」と驚きますよね。その時点で、映像は思い出のものではなくなってしまいます。そんな状況もあり、ブライダル事業者の方々から「もっと簡単にヒット曲、人気曲を使いたい」という声がありました。そういった声があることを我々が音楽業界に伝え、ブライダル業界の苦労を解決するためのスキームを提案した結果、ISUMのサービスが始まりました。

ISUMが設立された背景と利用するメリット

—ISUMが設立された背景について、より詳しくお聞かせください。

ISUMが設立された理由はブライダル業界から強い要望があったということです。この声を音楽業界に届け、1年をかけて交渉し、ISUMのスキームがレコード協会の承認を得ることができました。その後押しとなったのが、ブライダルはアーティストや楽曲のイメージを損なわないということです。楽曲のイメージが損なわれないか。自分の意図が曲げられないか……アーティスト側は自分の意図していない形で楽曲が使われるとなると、許諾を出しません。ですが、「ハッピーでポジティブな結婚式で使用するため、楽曲のイメージが崩れることは無いので心配しないでください」と前向きに伝えることで楽曲の使用許諾を得ることができています。結婚式という環境をもとに、我々はこのスキームをスタートさせました。

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—ISUMは結婚式場や下請けの映像事業者、音響事業者が対象になったスキームだということでしょうか。

現在、主に式場、映像、音響といった事業者の方に登録いただいています。それらに加え、ホテルも対象となっていますね。ただ、ホテルや結婚式場は自分のところでクルーを持ってやっているのではないので、下請けとなる映像事業者、音響事業者の方々が実際には申請を行い、楽曲を利用されることが多いですね。

—現在はレストラン婚などが流行っていますが、レストラン側で直接ISUMに登録すれば良いのですね。

はい、そうです。事業者の方は1回登録手続きを踏んでいただければ、あとは楽曲を複製使用される際にオンライン上で申請し、使用料をお支払いいただくだけで問題ありません。毎回契約を取り交わすといった手間が省けます。結婚式は一生に何度もあるわけではありません。我々も結婚式のために新郎新婦様に手間をおかけすることを避けようということで、事業者を対象としたスキームなんですよ。

—ISUMを利用するメリットはどこにありますか。

ISUMを利用する1番の大きいメリットはオンライン上で申請ができ、手間がかからないことですね。それから、これまでの指値を交渉する金額よりもかなり安い金額で楽曲が使えるところにあると思います。

—3年前に開始されて、その後どのようなスケールをされていますか。

スタート時の登録楽曲数は約500曲でしたが、現在は約3500曲にまで増えています。音楽業界でもISUMの認知が高まっていますし、アーティストも積極的に結婚式で使われる曲を出しています。それから登録事業者数も約800にまで増加していますので、これは非常に良い数字ではないかと。3年でここまで持ってこられたというのは我々としては予想以上ですね。

店舗側はどうすればいい?ウェディングイベントのBGMで気をつけるべきポイント

—その他ウエディングでの具体的な場面として、カラオケや生演奏はどうなのでしょうか。

我々はカラオケに関しては対象外です。あくまでも市販の楽曲であり、市販のCDからコピーされて使われる楽曲の権利処理を対象としているスキームなんですよ。それから生演奏はJASRACなどの著作権管理団体と権利処理を行えば問題ありません。

また、我々のスキームは配信の音を対象としていません。なぜなら、権利者が配信事業者に対して許諾している範囲は私的利用の範囲であり、元々不特定多数が聞くところで使える音源となっていないため、市販のCDの音が対象となっています。

—日常的にBGMについての権利関係、情報関係を知る機会があまり多くないという印象があります。

レコード会社は今まで、著作隣接権について啓発活動を十分にはしてこれていなかったということだと思います。ただ、1つ理解していただきたいのは著作権・著作隣接権があるということは、楽曲そのものは誰かが作ったものということです。それについて対価を払うのは当然のことですし、対価が支払われなくなると音楽が作られなくなる。自分が一生懸命作ったものが対価を得られず無料で使われてしまうと、音楽を志す人がいなくなってしまう。そして日本の音楽文化が廃れてしまう……だからこそ、是非とも著作権に関して正しい認識をもっていただきたいですね。

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—思い出に残るイベントにとって、BGMは本当に大切な要素ですね。

はい。音楽の持つ力は素晴らしいです。2人の思い出の曲や出会った時のヒット曲など2人の歴史を紡げると思いますし、人間性も映し出されると思います。音楽は結婚式の要素としては非常に重要なんですよ。音楽を大切にされる店舗があるからこそ、文化を大切にするための正当な権利が存在するということを述べていきたいです。若い人は音楽をただで聴けると感じている部分はありますが、その理解は是非とも忘れないでいただきたいですね。

—「予算を抑える」という意味ではレストラン婚が増えてきているなかで、ウェディングイベントを新たなサービスとして始めようとしている店舗運営者にアドバイスはありますか。

是非とも音楽を積極的に使ってほしいですね。音楽は食器やワインといった形のある「もの」ではありませんが、感動的に結婚式を盛り上げることができます。

結婚式全体の費用から見ると音楽にかかる金額はそれほど多くは無いように感じますが、更に見直したいという場合は入場行進、ケーキ入刀、退席はヒット曲を使って、その他の音楽を出席者が気にかけない食事の時は音楽を著作権フリーの楽曲を用いる。それによって予算がコントロールできる、というアイデアもありますね。

—なるほど、BGMはアイデア次第で低予算ながら効果的な演出ができるのですね。本日はありがとうございました!

まとめ

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店舗をウェディングイベントの会場として使用する際に注意すべき音楽の著作権。BGMの使い方次第では新郎新婦はもちろんですが、参加者にも大きな感動を与えます。お客様の心に残るイベントを目指すだけではなく、音楽著作権の使用申請についても気をつけなければなりませんね。

一般社団法人音楽特定利用促進機構 ISUM 公式サイト:http://isum.or.jp

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magazine 編集部

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店舗BGMアプリ「モンスター・チャンネル」が運営する店舗運営情報magazineの編集責任者。