街中でお弁当や料理、コーヒーなどを販売するキッチンカー。近年ではこのような形式で販売を行う店舗も増えているため、見たことがある方や実際に何かの商品を買ったことがある方も多いのではないでしょうか。
このような車を使った販売は、お客様の来店を待つのではなく、人が多く集まる場所に出向いて出店できることから、効率よく売り上げをあげられます。そのため思い切って「移動販売を始めよう!」と決意する人もいますが、事前の準備をしっかりとしなければ失敗してしまうことも……。
そこで今回は移動販売のメリットや、始める前に申請が求められる資格や許可などを解説します。
移動販売は初期費用が抑えられ、投資回収率が高い
まずは移動販売のメリットとデメリットを見てみましょう。
移動販売のメリット
移動販売の主なメリットとしては、主に「場所」にとらわれず、固定の店舗と比較してぐっと少ない「人件費」や「賃料」で出店できる点があげられます。移動販売事業は店舗のように家賃もかからないため、賃料や出店料を安く抑えることができます。初期投資を抑えられ、投資回収率が高いことは移動販売事業の大きな特徴です。
また移動販売は、人が集まる場所やイベント会場へ出向いての営業ができることから車両にもこだわりたいもの。個性的なキッチンカーならば集客力のある場所で販売を行うと非常に目立ちますね。また、移動によってたくさんの人の目に触れ、「いつでも買えるわけではない」という付加価値がつくことで、お客様の間で口コミから自然と広告効果が得られる可能性も。
移動のメリットはこれだけではありません。大型店や競合店ができても、移動することで、新たなお客様を獲得しに行けるのです。
移動販売のデメリット
しかし、移動販売には「天候で客足が変わる」「営業時間の長さ」「車の故障で営業不可」といったデメリットもあります。
移動販売は屋外で営業することが多くありますが、必然的に天候で販売が左右されることとなります。やはり雨や風の強い日は、外で食べることができないので、客足が遠のいてしまい、収入が安定しないことも考慮に入れる必要があります。
また、場所にもよりますが、移動時間や設置、片付けなどを含めると営業時間がかなり長くなります。夏場などは野外音楽イベントなどが販売のチャンスとなりますが、火を使って調理する場合、車内の温度が高くなってしまうために暑さ対策も徹底しなければいけません。
そして移動販売は固定店舗と比べてスペースが限られるため、販売するアイテムが限られることもデメリットのひとつです。人件費がかからないメリットはあるものの、出店場所の確保や材料の調達などを自分でやらなくてはなりません。さらに車が故障してしまうと営業できなくなるので、直るまでは休業しなくてはならないというデメリットもあります。
これらを理解したからといっても、ノウハウがないと移動販売は始められません。メリットとデメリット、双方を認識したうえで賢く検討しましょう。
移動販売を始める前に押さえておきたい4つのポイント
1.売るものを決める
移動販売を始める際、一番に考えなければいけないのは「何を売るのか」ということです。いわゆる「商材」が決まっていないと、必要な調理機器や備品は何が必要なのかわからないだけでなく、車両の選定を含め初期費用の試算ができないからです。
最初から商材が決まっていない場合は、「どんなお店が人気なのか」、「どのくらいのレベルの商品を販売しているのか」など、実際にイベント会場で出店している店舗をチェックしておくといいでしょう。最近は新規参入の移動販売が増えていることもあり、新しい発見があるはずです。
また商材は、1日を通して買いやすいメニューにするのが望ましいでしょう。たとえばクレープやサンドウィッチなど、ご飯にもスイーツにもなる商材は、時間帯による食のニーズに対応でき、たくさん販売することができます。一方で丼ものは、ランチタイムや夜の時間帯など、需要が大きく偏ってしまい、イベント会場やオフィス街でのランチとして販売する以外は需要が見込めず、単体での販売は難しい商材です。
さらにメインとなる商材にプラスできるトッピングメニューを2〜3種類用意した販売や、ドリンクを追加販売する方法はさらなる売上アップを目指すうえでオススメです。
2.車両を準備する
移動販売のための車両を用意します。キッチンカーは車内で調理ができるように改造された車なので、最初からキッチンカーとして販売している車両はありません。キッチンカーの入手方法には大きく3つあります。
・レンタル
キッチンカーとして改造した車両をレンタルできます。中には営業許可を取っている車両もあるため、レンタル後、営業までがスムーズです。
・車両を購入して改造する
キッチンカーのベースとなる車両を購入して、業者に改造を依頼します。自分で改造することもできますが、ガスや配管などをはじめとする専門知識が必要となります。
・中古のキッチンカーを購入する
すでに改造されたキッチンカーの中古車を購入する方法も。最近は専門の販売業者も増えてきています。
それぞれメリット・デメリットがありますが、中古車で購入した場合、車両改造費用が節約できます。ただし、中古車なので、ある程度のメンテナンスを行わなければいけません。購入前のチェックは、細部まで念入りにしましょう。何か不備が起こってからでは遅いのです。
購入する場合、小型車は40、50万円から(車検なし)、トラックは車検の有無に関係なく100〜300万円ほどが相場となっています。レンタルの場合は、平日で3万円〜、土日祝日は7万円〜が相場です。一般車両のレンタルと比較すると割高に感じるかもしれませんが、車両購入や改造費などに投資するリスクや営業許可を取る手間などを考えると、本格的に起業する前のトライアルとして考えたら便利な方法になります。いきなり購入するのはリスクが大きいため、まずはレンタルなどで様子をみてみるのがいいかもしれません。
3.許可を得る
移動販売を始めようとした際、保健所の営業許可が必要になります。保健所のチェック項目を満たしていないキッチンカーは、営業許可を取得できない可能性があるため、「車両はあるのに営業できない……」という事態になりかねません。事前にしっかりと確認しておきましょう。
ちなみに、移動販売車・キッチンカーの営業許可でチェックされる項目の一部は、以下の通りです。
■調理場と運転席が区切られている
■換気について考慮されている
■給水タンクの設置(充分な容量がある)
■排水装置の設置(充分な処理能力がある)
そして移動販売には「食品営業自動車」と「食品移動車」の二種類の営業許可があり、さらに「食品移動車」はそこから取り扱うもので種類が分けられています。
■食品営業自動車
例)ケバブやクレープ屋など・生物不可。加熱処理など簡単なものに限る。■食品移動自動車
・食品移動自動車A
例)乳類販売業や食肉販売業・調理加工は行わない、包装されたもののみ。
・食品移動自動車B
例)弁当屋など・調理加工は行わない、生食用魚介類はあらかじめ
包装されたもの。
注意点としては、「仕込み場所」についても考慮しなければいけません。フランクフルトといった焼くだけのメニューやかき氷などの商材とは異なり、クレープ生地や具材の準備は、事前に仕込みをする必要が発生します。許可を取った移動販売車の車内では簡単な調理や加熱、盛り付けが許されますが、保健所によっては「仕込みは営業許可証を得ている場所で行うこと」になっているため、事前に確認しておくのがよいでしょう。
また、食品営業を行うわけですから、許可施設ごとに食品衛生責任者を置く必要があります。資格がなくても講習を受ければ交付されることになっています。詳細は保健所に問い合わせましょう。
4.出店場所
移動販売において、出店場所は売上に大きく影響します。何度も出店していくうちに、時間帯ごとの売れ行きの違いやお客さんの流れ、客層などが把握できるため、最初は信用のあるスーパーや小売店などの店舗前で販売するのがオススメです。少しずつ自分の店舗を知ってもらうことで信頼を得て、安心して買ってもらえる基盤が作りやすいのです。
販売実績が得られたら、場所を変えてみましょう。出店場所の探し方は、出店場所を貸し出ししている会社を利用するほか、ネットで出店募集情報をリサーチする、仲介業者を利用するといった方法があります。これらに加えて、同業者からの紹介や自分で新規開拓する方法も。ある程度リピーターがついた後、ネットなどを使って出店先を告知しておけば、お客さんが来てくれるようにもなります。
入念な準備をもとに、移動販売を始めよう。
意外と簡単に始められそうな移動販売ですが、事前に入念な準備をしておかなければ「もっとうまくいくはずだったのに……」と後悔する結果となってしまいます。まずは商材を決めることや許可の申請など、しっかりと確認したうえで移動販売をスタートさせることが大切です。
営業を始めた後は、何が必要とされるのか、人気のお店はなぜお客を呼び込めるのかを分析しながら、自分だけの店舗で多くのお客様との出会いを得られるように努力を重ねていきましょう。