音楽を聴くと、そのときの食事や会話などを思い出す……そんな経験をしたことはありませんか?
昔好きだったアーティストの楽曲を久しぶりに聴くと、当時の出来事や記憶を鮮明に思い出したり、そのとき一緒にいた人を思い出したりします。また同じように、匂いや味覚によって過去の記憶を呼び覚ます、「プルースト現象」と呼ばれるものもあります。
このように、わたしたちの「感覚」は、記憶と深い結びつきを持っています。
店舗の音楽や香りを工夫することで、より店舗の様子をお客様の記憶に印象づけることができるかもしれません。
今回は店舗運営にも役立つ、日常に潜む「イメージの交差」を紹介します。
感覚と記憶は、深く結びついている
音楽を聴くことや味覚、嗅覚から記憶がよみがえることには、どのような例があるのでしょうか?
音楽は記憶の手助けをする
音楽は、脳のさまざまな部分に働きかけるため、人が脳で記憶している情報を外に出すことを手助けしてくれると言われています。
事故や脳卒中など脳を損傷した人や、アルツハイマーの治療にも音楽療法は効果的とされており、実際に音楽療法によって再び会話ができるようになった人もいるというほど、音楽は脳の働きと深い関わりを持ちます。
また、聴いたことのある音楽を再び聴くと、脳の海馬が刺激されます。海馬は脳の中でも長期記憶を司る部分のため、その曲を聴いたときに関係のある記憶を再び呼び覚ますことができるのです。
お店のコンセプトに合った曲や、テーマソングのような存在のBGMを決めておけば、お客様がその音楽を聴いたときに「◯◯のお店に行きたい!」「◯◯が食べたくなった!」などの感情になることがあるかもしれません。
音楽で記憶を取り戻したアルツハイマー患者
2014年にアメリカで公開されたドキュメンタリー映画「パーソナル・ソング」では、実際に認知症を患っていた94歳のヘンリーが、iPodで自分の好きだった歌(=パーソナル・ソング)を聴くことで、記憶を取り戻していく奇跡の様子が描かれています。
認知症となってからはふさぎがちだったのにも関わらず、昔よく聴いていた曲を聴いた途端に饒舌になり、さまざまなことを話し始めるヘンリー。
効果は一時的なものではありますが、音楽の力がヘンリーの記憶を呼び覚ます手助けをしたという、ひとつの実証になっています。
匂いを嗅ぐと、一緒にいた人を思い出す?
また、特定の匂いを嗅ぐことで、そのとき一緒にいた人やその状況を思い出すという現象があり、それは「プルースト現象」と呼ばれています。これは、フランスの作家マルセル・プルーストの作品「失われた時を求めて」の中で、主人公がマドレーヌを食べたときにそのときの記憶を思い出した場面から、この名前がつけられています。
人間は匂いを吸い込んだとき、嗅気は脳の中で情動を司る扁桃へと送られます。そして、一度脳に送られた嗅覚の刺激は、脳の他の部分にも刺激を与えるようになると言われています。
米ロードアイランド、ブラウン大学の神経学者レイチェル・エルツ博士は、「嗅覚、そして脳の情動を操る部位には、特殊な関係がある」と語っており、その言葉からも嗅覚が記憶や感情に深く関係していることがわかります。
アロマ空間デザインといった、アロマテラピーを使った空間づくりも注目されはじめています。このアロマ空間デザインには、お店を記憶に残りやすくするだけでなく、より購買意欲を高める効果などがあるとも言われています。
音を聴くと色が見える、匂いがわかる「共感覚」
中には、音楽を聴くと特定の色を感じたり、文字を見ると音楽が頭に浮かんだり、匂いを嗅ぐと色彩が見えたり……といった、2つの感覚を同時に刺激することができる人もいます。このような人を、「共感覚者」と呼びます。
薬物使用や精神的な病気による症状ではなく、日常的にこの現象を体感しており、他にもさまざまな条件にあてはまる人がこの共感覚者とされています。
共感覚者の中には芸術家も多く、画家のポール・セザンヌやワシリー・カンディンスキー、音楽家ではアレクサンドル・スクリャービンやオリヴィエ・メシアンがこの共感覚を持っていたと言われています。
一般的にこの共感覚をはっきりと持っている人は少ないですが、BGMや香りを使ってお店のイメージづくりをしようとするとき、この現象は参考になるのではないでしょうか。
BGMで店舗のイメージを誘導させよう
音楽や香りを使うことで、より「お客様の記憶に残りやすい」店舗づくりをすることができます。
逆の効果もあり、うるさく雰囲気に合っていない音楽が流れていたり、苦手な香りがする店内だったりすると、お客様の中にはマイナスのイメージで記憶してしまう場合もあります。
そうならないためにも、お客様にとって心地よい、快適な店舗づくりを目指しましょう。
店舗のBGMは、そのお店のコンセプトや雰囲気、イメージをつくることにも大きな影響を与えます。落ち着いたお店なのか、賑やかなお店なのか、子供や家族連れでも入りやすいお店なのか……など、BGMも店内の第一印象を決める要素に含まれています。
店舗のコンセプトやテーマを決めたあと、それに合うのはどのようなジャンルの音楽かをよく考え、よりお客様に印象づけられる空間を作りましょう!