収益アップはすべての経営者の課題です。特にコロナ禍のいま、ムダをなくしわずかでも利益を確保することに多くの経営者は頭を抱えていることでしょう。今回は、マーケットの変化や人の流れなどによって価格を調整する「ダイナミックプライシング」について触れていきます。
1.価格変動で人の流れをコントロールし、利益の最大化を図るダイナミックプライシング
2.今後はビッグデータの活用が必要不可欠に
3.ダイナミックプライシング導入における注意点
4.飲食店における事例『お食事処asatte』
5.ダイナミックプライシングは消費者の選択肢も広がる
価格変動で人の流れをコントロールし、利益の最大化を図るダイナミックプライシング
ダイナミックプライシングとは、商品やサービスの需要と供給に応じて、適宜価格を変更していく仕組みを指します。つまり、需要が多く見込める、人が集まるエリアや繁忙期には価格を高く設定し、逆に閑散期や人が集まらない場所、シーズンオフに安価に設定することで利益の最大化を図るのです。
例えば、年末年始やGWなどの大型連休時は、観光地での宿泊料金は通常より高めに設定されています。移動に使う飛行機も、早朝や深夜発着の便は安めに設定されています。スーパーマーケットでは閉店間際に「半額」「〇%引き」といったシールが貼られた商品を目にしますが、日持ちしない生鮮食品を売り切るために値下げすることも、ダイナミックプライシングに該当します。
最近は新型コロナウイルスの影響から、いわゆる「3密」を避ける動きが提唱されているため、オフピーク時に商品やサービスを安く提供することで、人の流れを分散し混雑を緩和できる点も注目されています。
今後はビッグデータの活用が必要不可欠に
飛行機やスーパーの例からも、すでに私たちの生活にダイナミックプライシングが深く影響していることがわかりました。さらに今後は、AI(人工知能)を用いてより適切かつ詳細なダイナミックプライシングが定着していくとみられています。
ビッグデータを集積させることで、近隣のイベント状況や人の流れ、天候、競合他社の情報、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)による注目度といった、より微細な情報をリアルタイムで察知することができ、自社の販売戦略に落とし込むことが可能となります。直感や記憶といったあいまいな理由でなく、データという確かな裏付けに基づいた情報なので、判断ミスを最小限に抑えることができるのです。
民泊サービスの「Airbnb」では、必ずしもビジネスパーソンとは限らない部屋の貸主に適切なプライシング(値付け)を求めることは困難であるという見解からダイナミックプライシングを導入。エリアやシーズンといった情報のほか、ページのビュー数、設備情報(Wi-fiやアメニティなど)の充実度、予約履歴、レビューの評価といった点も宿泊料金に反映される仕組みとなっています。
逐次価格を調整できる点は、急成長を遂げているオンラインショッピングでもメリットを発揮します。ホームページに掲載されている商品やサービスの価格を、集積されたビッグデータのアルゴリズムによって随時変更できるため、消費者は購入ボタンを押したタイミングでの価格で購入することができます。
ダイナミックプライシング導入における注意点
一方で、ダイナミックプライシングにはリスクも付きまといます。例えば、予定していたイベントが延期になった場合などでも、急な料金の変更には対応できません。すでにチケットや宿泊費の支払いを済ませている場合、結果として消費者が損をすることになります。
同時にビッグデータを活用するということは、システムの運営・管理を外部に委託することになるため、その分のコストが発生します。データアナリストなどの専門家が活躍する分野でもあるため、自社でシステム運営していく場合にはその分の人件費も発生します。
また、ダイナミックプライシングの仕組みが十分周知されていないと、「なぜ同じ商品(サービス)なのに他人より自分の方が高いのか?」というクレームが頻発することが予想されます。同時に、「定価」という概念が薄れてしまうため、消費者は適正価格を知ることが難しくなります。
例えば、自販機で売っている缶飲料は「130円」という共通認識がありますが、これが一部の場所では100円で売られていたり、山奥などの僻地では200円で売られていたりします。100円は安く、200円が高いと感じるのは、私たちが「130円」という通常価格を知っているからなのです。
このため、商品やサービスに対する定価または一般的な相場が周知されていなければ、販売者と消費者との間で信頼関係を築くことが難しくなり、ショッピングを円滑に行う上でネックとなってしまいます。
飲食店における事例『お食事処asatte』
コロナ禍による「3密」回避の目的から、ダイナミックプライシングを導入した飲食店があります。東京都渋谷区にある『お食事処 asatte』(アサッテ)では、時間帯でメニューの価格を変えることを決断。ランチタイムの11時30分から15時までの3時間半を6つの時間帯に分割し、従来1,000円均一だった定食の価格を以下のとおり変更しました。
11:30~12:00 950円
12:00〜12:30 1,050円
12:30〜13:30 1,100円
13:30〜14:00 1,000円
14:00〜14:30 950円
14:30〜15:00 850円
asatteはカウンター、テーブル合わせてわずか12席しかないため、満席時はどうしても密になりやすい環境にありました。そこで、お店のインスタグラムで時間帯別の価格改定を告知したところ、大勢の客が興味や理解を示してくれたようで、もっとも混雑が予想される12~13時の時間帯の集客を減らし、安価なオフピーク時に分散させることに成功しました。
また、asatteでは現金払いのみ可で各種カードや電子マネーは使えませんが、ランチメニューはその日の仕入れ状況に応じて1種類しか用意されておらず、会計時に煩雑な計算が必要ないことも、ダイナミックプライシングがスムーズに実現した背景にあります。
ダイナミックプライシングは消費者の選択肢も広がる
利益の最大化に加え、混雑の緩和にも寄与するダイナミックプライシング。私たちの身近なところでその動きが活発になってきていますが、消費者としてもタイミングを見極めることで安く手に入れられるという経済的なメリットがあります。
今後進展していくダイナミックプライシングをうまく活用しながら、収益アップにつなげてみてはいかがでしょうか。