飲食店や美容サロンなどで流れる和楽器音楽は、お客さんのお正月気分を盛り上げてくれます。代表的なのは筝曲の「春の海」ですね。でも、こうした和楽器音楽がお正月の時期だけや、伝統的な和食店にだけ合う音楽だと思っていませんか?
実は洋食店などにも不思議とマッチする音楽なんです。今回はこうした、空間を自在に演出する和楽器音楽を紹介します。
西洋音楽とはここが違う!和楽器音楽の5つの特徴
和楽器といいますが、実はもともと大陸から伝わった楽器です。それが、日本に伝わって日本人に合うように改良され、日本独自の楽器と定着していきました。そんな和楽器から繰り出される邦楽の特徴を見てみましょう。
1. 美しい音色を追求する音階
西洋の長音階のドレミファソラシから、4番目のファと7番目のシを抜いたドレミソラの5音階を用いるのが和楽器の音階です。この日本音階はもともと中国から伝わったものですが、開始音を変えた音階は次第にわらべ歌や民謡へと変化。さらに、雅楽や「君が代」の音階へと、日本独自のものとなっていきました。
洋楽器が音域の拡大を目的としたのに比べ、和楽器はきれいな音色を出すことに重点を置いて発展していきました。三味線は駒一つで大きく音色が変わり、天候や楽器の状態によって美しい音色を追求します。こうした特徴を持つ和楽器音楽は、狭い空間に美しい音色を響かせることに向いています。
2. 雑音がコードになる
コードとは、2つ以上の音を重ねて複数の楽器を鳴らす和音のことです。コードはメロディーを聴いている人の気持ちを落ち着かせたり、盛り上げたりする機能があります。
和楽器の場合、和音の理論はありません。その代わり「雑音の美」という独自の美意識が古代より認められてきました。それは音符上のコードではなく、奏法によって生まれた雑音が、あたかも和音のような効果を持つというものです。洋楽器で雑音の要素を取り入れるようになったのは現代になってからなので、和楽器がいかに特殊なのかがわかると思います。
3. リズムの概念がない
日本の伝統音楽では強弱のリズムが希薄です。基本的に拍子の概念がありません。童謡の「あんたがたどこさ」は2拍子3拍子4拍子が入り混じる変則拍子曲です。しかし、全くリズムがないというわけではありません。
<くまもとどこさせんばさ せんばやまには・・>
この「せんばさ」と「せんばやまには」との間にある無音が、「間」として和楽器音楽のリズムとなっているのです。
4. シンプルな楽器構成
そもそも和楽器は、木や竹、皮などの素材を使って、簡潔な構造に突き詰めたものです。和楽器には、簡潔さの中にこそ魂が宿るという独特の美意識があります。洋楽器が入ってきても、和楽器はほとんど影響されずに残ってきました。
その考え方から、基本的に単独で演奏することが多いのも特徴です。尺八と筝との演奏や、雅楽は笙(しょう)、ひちりき、りゅうてき、など小編成で演奏されたりします。
5. 日本で独自に発展
大陸から楽器が伝わる前の日本の楽器には、和琴(わごん)、神楽笛(かぐらぶえ)、笏拍子(しゃくびょうし)がありました。その後に伝わった楽器も、日本で独自の発展を遂げ、三味線、尺八、小太鼓、太鼓へと進化しています。
ロック・ジャズ×和楽器音楽!進化する和洋コラボのムーブメント
津軽三味線の「吉田兄弟」は、アメリカ、ヨーロッパ、アジアなど海外での活動も精力的に行い、ジャズ、ロックとの共演を通して、新しい津軽三味線の世界を展開しています。
2007年には全米のテレビCMで「Wii」の音楽に採用されました。このCMは1年以上を通して放映され、6パターンある音楽全てに吉田兄弟の曲が使われました。これにより、吉田兄弟はアメリカで大きな人気となっています。
吉田兄弟の兄・良一郎は、津軽三味線、尺八、筝、太鼓からなる和楽器バンド「WASABI」を結成し、4つの楽器の音色、奏法といった個性を生かした、新しい和楽器音楽にも取り組んでいます。
また、雅楽奏者、東儀秀樹も1996年にフリーでCDデビューを果たすと、ピアノやシンセサイザーといった現代楽器とのコラボレーションを発表しています。
その他、ロックバンドとして活躍する「和楽器バンド」も注目を浴びています。尺八、筝、三味線、和太鼓に、ギター、ベース、ドラム、そして詩吟の師範がヴォーカリストといったユニークな編成です。「和楽器バンド」は、和楽器とロックの融合として、海外でも高い評価を得ています。
時代を遡れば、1960年代にも和楽器とジャズのフュージョンが試みられてきました。それは現代にも引き継がれていて、尺八の人間国宝・山本邦山がジャズと共演した曲において、尺八の幻想的な演奏とジャズの即興の妙味がマッチしています。
こうした和と洋がコラボレーションする試みは、クラッシック界にも起きているほど、大きなムーブメントとなっているのです。
和楽器音楽は、和と洋どちらのお店にもぴったり!
もともと、大陸文化だった和楽器が、今やそのルーツを探るかのように、洋楽とのコラボレーションが始まっています。こうした動きは、まるで先祖返りをするかのような音楽の融合といえるでしょう。
そして、私たちの身近な生活で和楽器と関わる場面といえば、店舗や飲食店などのBGMとして使われているものが多かったことかと思います。これは、和楽器が小さな空間で音色を追求するために発展してきたという歴史があるためです。
こうしたルーツがあるから、お店でのBGMにぴったりなんですね。ただ、これまではどうしても和をコンセプトとするお店で流れていることが多かったのではないでしょうか。でも最近では、洋楽ジャンルとコラボが盛んになったことから、イタリア料理店などの洋食店にも合うような和楽器音楽も増えてきました。これからは、現代的にアップデートされた和楽器音楽が、様々なお店でBGMとして流れるようになるかもしれません。