飲食店の売り上げをアップさせたいけど、どんな工夫をすればいいのだろうか……そんな課題を解決する方法として、「テイクアウトの導入」を検討する方がいます。
テイクアウトを始めれば、通常のイートインによる売り上げ以外にもお客様が来店する可能性は大きくなります。ただし、何も策なしに導入すればいいというわけではありません。
今回はテイクアウトを導入するメリットや注意すべきポイントを解説します!
テイクアウトが注目を集めている背景とは
今回注目するテイクアウトは食事を買って持ち帰ることから飲食店で食事をする「外食」、自宅で料理をする「内食」の両方の特徴を兼ね合わせた「中食」にあてはまります。外食産業は「農林水産省平成24年度 食料・農業・農村白書」からも読み取れる通り、高度経済成長期を経て急速に拡大を続けてきましたが、平成10(1998)年をピークに減少傾向に。この背景には不景気が大きく関わっており、一般家庭では外食の機会を減らすようになったと考えられます。
また、「共働き」が当たり前の選択となった近年では、家事にかける時間を減らしたいというニーズも高まる一方です。つまり、家に帰って料理をするのではなく、帰宅前にテイクアウトしたメニューで食事をまかなう人が増えているのです。
こうしたライフスタイルの変化にともない、中食産業は今後ますます発展していく見込みにあります。
また、2019年10月1日からは消費税が10%に引き上げられる一方、テイクアウトは「外食・酒類を除く飲食料品」として8%に据え置かれました。イートインとテイクアウトの差はわずか2%でありながらも、節約志向が根付いた消費者にとって外食は心理的なハードルが上がるものとなりました。
さらに、新型コロナウイルスの影響から、テイクアウトの需要が急速に増加しています。その背景には、「遠出しなくても美味しいものが食べたい」、「自炊が続き、外食の味が恋しくなった」、「家事の負担を軽減したい」といった理由からテイクアウトする消費者の考えがありました。店舗側としても、営業時間の短縮や外出自粛によって客足が遠のいた状況でも利益を生む方法としてテイクアウトを導入する流れが生まれています。
テイクアウトのメリット
テイクアウトの大きなメリットとは、客席を必要とせずに売り上げをアップさせられる点にあります。特に、客席の数が少ない小規模の店舗であれば、必ずぶつかるのが客席の「回転数」に関連する問題です。
かき入れ時となるランチの時間帯に小さな店舗が回転率を気にすることなくサービスを提供しようとすれば、客単価を上げるための特別な工夫が求められます。しかし、ランチ予算の限られているお客様はなかなか思い通りにお金を落としてはくれません。一方、無理に回転数を上げようとするとお店の居心地が損なわれ、場合によっては客足が離れてしまうことも。
そこで注目されるのが、テイクアウトです。テイクアウトは、座席数が少ない店舗でも確実に売り上げを伸ばすことができるからです。
イートインで好評のメニューのみをテイクアウトできるようにしている店舗も少なくありません。「店舗の味をご家庭でも味わえます!」とアピールすることで、行列に並ぶことを避けて来店の機会を得られなかったお客様をはじめ、お土産として購入を考えるお客様の購入意欲を刺激できます。
ただ導入すればいいわけじゃない!テイクアウトで考えるべきポイント
テイクアウトは売り上げアップに有効ですが、ただ導入すればいいものでもありません。やみくもにテイクアウトを始めた結果、売り上げアップどころか閉店を招いてしまった事例もあります。だからこそ、以下の点をまず考えたうえで導入を検討していきましょう。
1.備品の準備は十分にできるのか
テイクアウトには当然ながら、商品を入れるフードパックが必要です。ランチタイムに商品を購入し、近くのオフィスへと持ち帰って食べるお客様もいれば、少し離れた自宅まで持ち帰るお客様もいます。その場合はスープやカレーなど、汁物が漏れることがない形状なのか、少しの衝撃で壊れてしまうパッケージではないのかを十分に確認したうえで準備しましょう。せっかく買ったのに、開けてみたらひどい状態になっていた……となれば、お客様の信頼を著しく失ってしまいかねません。
2.適した商品の数を準備できるのか
テイクアウトを導入した際には、商品の数も検討する必要があります。欲張って作り過ぎてしまえば商品が売れ残り、慎重になり過ぎて少なめに準備すれば多くのお客様が購入できません。その日の天候や来店者数の傾向から判断し、適切な数の商品を準備することを心がけましょう。
そしてテイクアウト商品を調理する際には、売れるまでの時間も考慮しなければいけません。オーダーを受けてから調理して梱包し、お客様の手に渡るまで、多くの時間が経っている場合も考えられます。テイクアウトを導入する前には食材選びや味付けなどに注意しながら、時間が経っても良好な状態をなるべく維持できるように試作しましょう。
3.イートインとのバランスがとれるのか
テイクアウトを導入する場合、イートインと同時に対応できるかどうかも注意しなければいけません。どちらかに集中したあまり、片方がおざなりになってしまえばお客様へ満足度の高いサービスを提供することが難しくなります。
特に人気店のランチタイムともなれば、イートインとテイクアウトともに混雑することが予想されます。慌ただしさからお客様へ料理を提供する時間が遅れる、間違った数の商品を渡してしまうといったことがあればクレームの発生は避けられません。そのためにも、なるべくテイクアウト商品を滞りなくお客様に提供することを意識して取り組むことが重要だといえます。
その方法として、テイクアウトメニューのメインとなる部分のみ、オーダーを受けてから調理する「部分別調理」は大きな効果を発揮することでしょう。サイドとなる部分を事前に作っておき、メインとなる部分の調理、盛り付けが終わればすぐにお客様に提供することができます。お客様をお待たせしない点、イートインに近い状態の商品を味わっていただける点から店舗にもお客様にもメリットが多い方法です。
また、テイクアウトを「事前オーダー制」にすることもイートイン、テイクアウトを両立する方法のひとつ。事前にお客様がお求めになる商品数と来店される時間が確定できていれば、調理や梱包にかかる時間を計算したうえで余裕を持った準備ができます。イートインとテイクアウトの両立のためには商品を提供するまでの時間の削減はもちろんですが、同時に良好な状態の商品を提供できるかも考えておきたいポイントです。
テイクアウト導入時に必要な手続き
扱う商品によって異なる営業許可
基本的に飲食店営業許可を取得していれば、店舗で調理しているメニューをテイクアウト販売する際にあらためて許可を得る必要はありません。しかし、これはあくまでも店舗内で調理した料理を店内で提供する、テイクアウトやデリバリーで販売することの許可です。
たとえばケーキやクッキーなどのお菓子、ソーセージといった加工食品をテイクアウト販売する場合は、別途手続きが必要となります。販売したいメニューについて追加で得る許可があるのか、必要に応じて保健所に相談してみると良いでしょう。
衛生面で気をつけるべきこと
テイクアウトの導入が急増しているなか、食中毒の懸念も高まっています。
2020年6月には京都のカフェが医療従事者に向けて無償で提供した弁当が原因となり、50人以上の医師や看護師が食中毒の症状を訴えたという報道もありました。
食中毒予防の原則は、「つけない」「増やさない」「やっつける」の3つです。
食品や割り箸やフォークといったカトラリーは、お客様の口に触れるもの。食中毒の原因となる細菌を付着させないためにも、定期的な手洗いと消毒を徹底させましょう。
ご飯を温かい状態で詰め、蓋をしてしまうと水分が容器内にたまり、食中毒の原因となる細菌の温床となります。粗熱をとってから蓋を閉めるように注意しましょう。「お客様に温かいものを提供したい」という気持ちもあるかもしれませんが、当然ながらお客様の健康が第一です。そんなときは、「500Wの電子レンジで○分温めると美味しく召し上がれます」など、温め直す目安を記載したカードを添えるのもおすすめです。
食中毒の原因となる細菌は熱に弱いため、調理時にしっかりと火を通すことで死滅します。肉汁がしたたるハンバーグやつやつやとした温泉卵が乗ったパスタはなんとも食欲を誘いますが、食中毒のリスクを避けるためにもしっかりと火を通したメニューを提供しましょう。
テイクアウトの集客方法
これを機にテイクアウトを始めた店舗にとって、テイクアウトの集客は従来の営業とは異なる点もあるため、戸惑うこともあるかもしれません。テイクアウトの集客には、どのような取り組みが必要なのでしょうか。
テイクアウト用のスペースの確保
最初からテイクアウト販売を想定していた店舗を除き、入り口付近には十分なスペースが設けられていないこともあるでしょう。しかしレジでテイクアウト用の注文を受けたり、商品を受け取るまで待機していただくためのスペースは不可欠です。場合によってはイートインのお客様の導線を邪魔しないようにレジの位置を変えたり、椅子を設置してテイクアウト用のスペースを確保しましょう。
看板、のぼり、チラシで宣伝
テイクアウトをスタートさせても、2階以上や地下で営業している店舗は目につきにくいといった注意点があります。そのため、ビルの入り口に看板やのぼりを立ててテイクアウトを始めたことをアピールしましょう。
同時に、駅前など人が集まりやすい場所でメニューの写真や値段を入れたチラシを配る、ランチタイムを狙って店舗の前で呼び込みを行うことも有効です。
各種WEBサービスとの連携
テイクアウトを行っている店舗を検索できるほか、メニューの予約と決済まで行えるアプリも次々登場しています。
クレジットカードで事前決済を行うサービスでは、店舗とお客様のやり取りは商品の受け渡しのみとなります。接触時間が短く、直接金銭の受け渡しが発生しないため新型コロナウイルス感染予防にも有効であるほか、待ち時間の短縮にもつながります。
テイクアウトアプリのPICKSは、月々の利用金額に応じてポイントが貯まり、クーポンに交換できます。クーポンが集客の呼び水となり、リピーターの獲得にもなるでしょう。
また、食べログ テイクアウトはテイクアウトの注文・決済だけでなく食べログのサービスと連携しているため、ユーザーは店舗の詳細情報や食べログでの評価をチェックすることができます。「検索地点から800m圏内の店舗のみ表示される」といった留意点もありますが、思い立った時にアプリを立ち上げ、評価を参考にお店選びができることはユーザーが立ち寄る動機になるはずです。
お客様に満足いただくためにも、まずは準備を徹底することから
テイクアウトそのものが売り上げアップにつながるのと同時に、これをきっかけにお客様が店舗に来店することも大いに考えられます。だからこそ、十分な準備と検討をしたうえで導入したいもの。ただメリットだけを見るのではなく、その他の業務に支障が出ないかなど、全体のバランスにも注意することが大切です。