店舗を運営するうえで、絶対に無いといえないのが火災の可能性。特に調理を行う際に火を使う飲食店は、火災発生の危険と隣り合わせです。もしも火災が起こった場合、多大な損害が発生することは想像に難くないでしょう。
そんないざというときに備えて、開業を検討されている方こそ知っておきたい防火管理者の届け出をはじめ、1年を通して気をつけておきたい防火対策を解説します。
今さら聞けない、防火管理者手続きの基礎知識
防火管理者とは、消防法で定められている資格。収容人数が30人未満の場合、防火管理者は必要ありませんが、30人以上になると防火管理者が必要です。この収容人数には従業員数も含まれ、もしもスタッフが5人で、客席が25席以上の場合は防火管理者の資格取得者を選出し、開業時には消防署に届出をしなければいけません。
この防火管理者は、防火業務の指示を出す立場の人でなければいけません。つまり、防火管理者はアルバイトスタッフではなく、万が一のことがあった場合に対応ができる人のほうが望ましいといわれています。
また、防火管理者には「甲種」防火管理者、「乙種」防火管理者の2種類があり、建物の延べ面積により分類が異なります。店舗の延べ面積が300㎡未満の場合は乙種防火管理者が、300㎡以上の場合は甲種防火管理者が必要です。
この防火管理者になるためには、都道府県知事や消防長、防災協会などが主催する防災管理講習の受講が求められています。受講費はテキスト代として3000〜6000円、講習期間は1〜2日であり、この講習を受ければ、資格を取得できます。開業の際には自分の働く店舗に必要な資格の種類を把握し、届出が必要であれば忘れずに行いましょう。
もしものことが発生する前に。日頃からできる防火対策
【設備面】
冒頭でもご紹介した通り、飲食店は調理のために火を使うことは避けられません。さらに近年では調理設備の火力がより強力になったこともあり、火災発生のリスクは増加しているといえます。
飲食店での火災の原因の多くは、店舗内の調理設備や排煙ダクトにあります。排煙ダクトは不燃材料でできているため即座に延焼することはないはずだと思われがちです、それは適切な維持管理がされていればこそ。積もり積もった油脂がこのダクト内に溜まってしまうと、火のついた油分が吸い込まれて引火し、天井が延焼するケースが増加しているのです。
消防法では、排気ダクトの入口付近に煙や火炎を遮断し、火災の拡大を防ぐための「防火ダンパー」という装置の設置を義務付けていますが、ダクト内にこびりついた脂分によって炎の勢いは増してしまいます。このダクトを介しての延焼を防ぐには、まず防火ダンパーを清掃し、こまめにメンテナンスを行うことが重要です。溜まってしまった脂分は、定期的にヘラなどでかき取りましょう。この脂分は長い時間放置すればするほど清掃作業に負担がかかるだけでなく、火災の原因にもなってしまいます。
また、これまでシンプルな構造で、火力や耐久性が求められる業務用厨房機器には、コンロの立ち消え防止装置やフライヤーの過熱防止装置などがついていないものが主流でした。しかし最近では、これらの機能を備えた機器が販売されるようになっています。「防火装置が付いているから大丈夫」と安心するのではなく、常日頃からの清掃、点検を心がけるようにしましょう。
【従業員の注意】
設備以外にも、常日頃から従業員への啓蒙活動を行うことが重要です。アルバイトの比率が高い飲食店業界では、コンロやフライヤーなどの取り扱い方や、危険性の認知不足が指摘されていますが、当然ながら「知らなかった」では済まない問題です。
厨房機器は日常的に使用するものだからこそ、店舗で働くスタッフ全員がマニュアルや防火に対する認識をしっかり持ち、心がける環境づくりをしていきましょう。火を使っているときは決して火元から離れず、火元の周囲にはタオルなどの可燃物を置かないように。そして万が一のときは設置してある消火設備をきちんと使えるように、スタッフに呼びかけておくことが大切です。
【店内の消火設備】
消防法では消化器をはじめ、スプリンクラー設備や泡消火設備、屋内・屋外消火栓設備、粉末消火設備など、消火設備の設置についても定められています。火災報知機や煙感知器、消火器、ガス漏れ感知装置など、店内に設置義務があるものは必ず設置しましょう。
さらに飲食店が含まれる特定防火対象物では、消防用設備の機器点検が6ヶ月に1回、総合点検が1年に1回実施されます。これらの点検は消防整備士や消防設置点検資格者によって行われ、点検完了後には消防長または消防署長に報告されることとなっています。
もっとも大切なのは、スタッフ全員が防火対策を意識すること。
飲食店は常に火災のリスクと背中合わせではありますが、普段から火災に対する予防や点検などの認識を持ち、火元となりうる場所を日頃からまめに清掃することで、お客様に安心して来店していただけます。
絶対に火災を起こさないように、自分だけではなく、アルバイトを含めた全従業員の間で防火意識を高め、未然に防ぐ努力を惜しまずに注意を払っていきましょう。