店舗を経営するうえで発生する経費は、固定費・変動費の2種類に分けられます。もしも普段何気なく管理している経費に無駄があれば、適切な経費コントロールで店舗の利益拡大につながります。
売上を急激に伸ばすのは難しいものの、無理のない範囲でコストを削減すれば、店舗の利益は増えることでしょう。今回は店舗運営時に発生する固定費と変動費の内容に注目しながら、目安となる割合や削減するヒントを紹介します。
固定費・変動費とは?
まずは固定費と変動費の基礎知識について説明します。
固定費
固定費(不変費)は、売上の変動にかかわらず支払い額が常に一定である経費のことを指しています。たとえば店舗の賃貸料や支払い利息のほか、冷蔵庫やフライヤー、エステ機器などのリース代が挙げられます。
変動費
固定費と異なり、売上に伴って支払い額が変動する経費のことを変動費(可変費)といいます。人件費や光熱費、宣伝広告費や仕入れの原価、販売手数料などが含まれます。
売上が多い月は利益も多いですが、その分食材費や光熱費も比例して多くなります。当然ながら、単純に「来店数が多かったから、利益もその分得られるだろう」と判断するのが難しいといえます。
正社員の給与は月額で決められているため、人件費を固定費とするケースも少なくありません。しかし、飲食店は時期や時間帯によっては来店数に大きな波があり、パート、アルバイトスタッフのシフトが変動します。そのため、自給制によりシフト数で賃金が変化するパート、アルバイトの人件費を変動費とする考え方もあります。
最適な固定費と変動費
利益を得るためには、固定費・変動費を売上の90%以内に抑えるのが望ましいとされています。
最適な固定費
種類に限らず、店舗経営に共通している家賃や減価償却費、リース料など固定費は一般的に売上の15〜25%に抑えるのが適正です。
最適な変動費
飲食店であれば食材費、サロンであれば施術に使用したアイテムや販売した商品の原価が変動費に含まれます。そのほかにも通信費や事務用品といった消耗品をはじめとする変動費は、合計で売上の60〜70%にするのが目安です。
これらはあくまでも目安であり、「たしかな腕を持ったエステティシャンによる施術」や「日常では味わえない食材を使ったメニュー」など、高級なサービス・商品の提供をコンセプトとしている店舗もあるかもしれません。そんな店舗が実績のないエステティシャンを雇ったり、安い食材を使ったメニューを提供していれば、店舗の評判を著しく下げることにもつながります。
原価を妥協したくない場合は、売上に左右されない固定費を中心に経費の見直しをすると良いでしょう。
固定費・変動費からわかる損益分岐点とは?
店舗経営で利益を無事に生み出せているのか、判断する材料のひとつに「損益分岐点」があります。これは売上と経費が同一になる点、つまり売上から総費用を引いた点のことを指しています。
損益分岐点は、以下の計算式で算出することができます。
損益分岐点=固定費÷(1-変動費÷売上高)
たとえばある飲食店での売上と各経費が以下の金額だった場合、損益分岐点の計算はこうなります。
【売上】
100万円
【固定費】
家賃:20万円
調理機材のリース料:5万円
【変動費】
食材の原価:20万円
人件費:20万円
光熱費:5万円
宣伝費や消耗品などその他変動費:5万円
25万円÷(1-50万円÷100万円)=25万円÷(1-0.5)=25万円÷0.5=50万円
利益が発生する売上金額は50万円となるため、売上が100万円の場合は利益が生み出せていることがわかります。
固定費と変動費の削減方法
売上をどんなに上げたとしても、固定費、変動費が高ければ赤字の可能性も考えられます。では、そんな固定費と変動費を削減するためにはどのような取り組みが有効なのでしょうか。
固定費の削減
テナント料
もともと所有している物件を使えば問題ありませんが、多くの店舗ではテナントを借りて運営をしています。そんな固定費の主な部分を占める家賃の削減は、利益を上げるうえで特に有効です。
しかし、家賃の交渉はオーナーとの交渉が避けられません。結果を急ぐあまりしつこく交渉してしまえば関係が悪化し、借りることそのものが困難になるリスクもあるでしょう。「長期的に借りるから安くしてほしい」など、相手にとってのメリットを提示しつつ、無理のない程度に交渉を進めるといった気配りが重要です。
保険料
固定費で見落としがちなのが、店舗の保険料です。もしものことを考えて保険に入っておくことはもちろん大切ですが、契約内容をよく把握できていないまま契約していれば、過剰に保険料を払っていることになります。店舗の規模や受けられる保証を見直しましょう。
変動費の削減
電気代
月々の電気の基本契約プランや通信費の見直しとして、電気、インターネット回線の契約プラン変更も有効です。近年では電力会社の自由化により、電力会社やプランを選ぶ選択肢が広がりました。電気代の大幅な削減も可能であるため、契約する会社やプランを見直してみるのも良いでしょう。
また照明の電球を従来のものからLEDに変えると、月々の電気代を削減できます。初期費用は高くなるものの、年間での電気代が削減できるため、初期費用を回収することも難しくありません。
水道代
また、水道代を見直したい人が知っておきたい情報として、地域によっては水道代の減免を行っていることがあげられます。実際に東京都では、減免対象の業種であれば水道代の削減が可能です。
パン製造小売業/クリーニング業/魚介類小売業/豆腐製造小売業/日本そば店/中華そば店/野菜小売業/かまぼこ水産加工業/こんにゃく製造業/民生食堂・大衆食堂/食肉小売業/大衆すし店/あん類製造業/めん類製造業/ソース製造業/つけ物製造業/そうざい製造業/つくだ煮製造業/ハム・ソーセージ製造業/水産物仲卸業/簡易宿所営業等/理容業/美容業
【減免内容】
・下水道料金
1月当たり51m³から200m³までの水量1m³につき5円を乗じて得た額に100分の110を乗じて得た料金
(参考:東京都水道局「手続き・料金」)
発行代・郵送代
事務作業で発生する書面の発行代や郵送代は些細な金額ではあるものの、積み重なれば大きな出費となります。現在はウェブ上での書類のやりとりも可能であるため、そのようなサービスを利用すれば事務作業による各種経費を削減できるでしょう。請求書や領収書は保管しておくための場所だけでなく、ファイル、ロッカーといった備品も必要です。それらも削減できるため、決して無駄ではありません。
アルバイトなどの人件費
そして人件費は、主に「シフトの組み方」と「オペレーションの改善」で削減が可能です。
お客様が少ない時間帯にも関わらず、過剰にスタッフを配置してしまえば人件費に無駄が生じます。しかし闇雲に全体のシフトを減らしても、お客様へのサービスの質が低下し、逆効果となってしまうでしょう。だからこそ、過去の売上データをもとにした売上予測から適したスタッフの人数を割り出し、配置を行うべきなのです。
また、少ない人数でも運営が可能となるようオペレーションを見直すほか、飲食店であれば各テーブルに設置したタブレットからオーダーをできるようにしたり、ビュッフェスタイルにすればスタッフの人数も自然と少なくできるでしょう。
固定費・変動費の見直しで店舗の売上をアップさせよう
月々の売上をアップさせるためには、確実な方法や即効性がないことから困難なケースも少なくありません。しかし、固定費や変動費を見直し、削減に向けて動くことは利益を生み出すのに有効です。 目先の利益を優先してサービスを低下させるのではなく、まずは現時点で生じている無駄を洗い出し、改善方法を考えるところから始めてみましょう。