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新型コロナウイルスの感染被害が確認されてから、もうすぐ1年が経とうとしています。感染防止のため人との接触を極力控えるようになってから、飲食業はテイクアウトやデリバリーによる供給が生命線となってきました。

従来どおりのビジネス展開が困難を極めるいま、複数の料理人がキッチンをシェアするか形で料理を提供する「シェアキッチン」というビジネスモデルが活発になってきています。

飲食業界でもスタートしたシェアビジネス

「シェアキッチン」とは、1つの厨房スペースを複数の料理人がシェアをする、飲食物のテイクアウトまたはデリバリーサービスの拠点を指します。シェアキッチンでは一般の厨房と同じように、シンク、コンロ(またはIHヒーター)、フライヤー、オーブン、業務用の大型冷蔵庫といった設備に加え、ボウルやざるといった調理器具もひととおりそろっています。

シェアキッチンで作られた料理は、直接来店客に販売するほか、「Uber Eats」や「Demae-can(出前館)」といったデリバリーサービスを介して届けられます。また、調理スペースだけでなく、来店客がその場で食事できるようなイートインスペースが設けられているところもあります。

低リスクで開業可能。横のつながりでコラボも実現

飲食店を開業したいと考えている人がシェアキッチンを利用する最大のメリットは、開業する際の初期投資を最大限にコストカットできる点です。

従来、飲食店をオープンさせるとなると、店舗の敷金・礼金、内装費、調理機器の購入費、テーブル、イスなど家具の購入費に加え、毎月支払うテナント賃料、光熱費、人件費といったランニングコストが発生します。繁華街の好立地だと準備金だけでも1,000万円を超えてしまうこともめずらしくありません。この点、シェアキッチンではオーナー(シェフ)がシェアキッチン事業を展開する業者へ支払う毎月の利用料と、自らが作る料理の材料費だけで済むのです。

シェアキッチンに似たモデルで、すでにある飲食店などの厨房を「間借り」してお店を開くパターンもありますが、この場合は貸しているお店の営業時間外のみしか使うことができず、主従関係が明確な自由度の低い営業スタイルと言えます。シェアキッチンでは、ほかの出店者との兼ね合いはありますが、自分が希望する曜日、時間帯で料理を提供することが可能です。

また、さらなるメリットとして、同業者と横のつながりができることから、あらゆる情報の共有が図れる点が挙げられます。意気投合した仲間同士で共同の創作メニューを作るといった、和食、中華、フレンチ、イタリアンなどのジャンルを超えたコラボレーションによる付加価値は、新たな顧客獲得にもつながるはずです。

基本的にキッチンという場所は構造上、中の状況をうかがい知るのは難しいものです。外部からの視点や意見が行き届きにくい環境にあるため、社会問題になっているハラスメントが起きやすい場でもあります。

ほかにも、極度の疲労から料理人がコンロの火を点けたまま厨房で寝込んでしまい、誰にも気付かれずボヤ騒ぎに発展したケースもあります。

このため、これからの時代はシェアキッチンの発展と並行して風通しのよい職場環境を作ることは、心身ともに健康かつ安全に働く上で欠かせない要素となってくるはずです。

十分な設備、スペースがあるテナント確保が今後の課題

一方で、シェアキッチン普及の足かせとなっている問題点もいくつかあります。まずは十分な設備を担保できる物件が少ないという点です。

シンクとコンロを複数設置するだけでもある程度のスペースが必要になります。イートインスペースを併設する場合は、さらにゆとりが必要で、内装も含めてシェアキッチンの付加価値を高めようとすると、物件はおのずと限られてきます。

IHヒーターや電子レンジは電力消費量が多いため、アンペアを上げる工事が必要となることが多く、光熱費の利用者負担増につながる可能性があります。また、一度に電気を使い過ぎることによって配線が加熱し火災のリスクも出てきます。

そして、厨房をシェアする形態である以上、1人が調理できる時間も限られるため、客単価が低く大幅な売上げが見込めない点もデメリットとして挙げられます。

ほかにも、共有スペースを根城とする以上、お店のブランディングに大きく制限がかかり、PRや広告展開に工夫を凝らす必要が出てきます。

シェアキッチンの事例紹介

無視できないデメリットはあるものの、まさしくいま、シェアキッチンビジネスを軌道に乗せようとしている気鋭の企業も見られます。

CLOCK KITCHEN(埼玉県さいたま市大宮区)

画像:https://clock-kitchen.com/

CLOCK KITCHENはJR大宮駅東口周辺の商店街の空き店舗などを改装したシェアキッチンで、同駅周辺に計3店舗を展開中です。飲食店営業と食料品販売業の許可を取得できる設備を導入していて、テイクアウト店舗とランチタイムに既存の店舗を間借りするイートイン店舗があります。テイクアウト店舗は約2坪ほどの矮小スペースですが、タバコ屋だった店舗を改装しているためテイクアウトに必要な対面カウンターは完備。製氷機やガスコンロも設置済みで、あらゆる飲食業に対応します。

運営会社である株式会社コミュニティコムは、市内を拠点に貸会議室やシェアオフィスといった事業を手がけています。シェアキッチン事業も、創業支援だけにとどまらず、商店街の空き店舗を有効活用することで地域活性化に貢献しています。

CLOCK KITCHEN公式ページ

BeChef SHIBUYA(東京都渋谷区)

画像:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000059027.html

BeChef SHIBUYAは2020年9月にオープンしたばかりのシェアキッチン。30坪の広さに3つの厨房スペースを構え、計6店舗が入居可能となっています。冷蔵庫、フライヤー、各種オーブンといった設備もそろえており、テイクアウト以外にも外部デリバリーサービスの利用も可能です。敷金・礼金などの初期費用はゼロ。さらに、新型コロナウイルスへの対策支援として、期間限定で事務手数料も無料となっています。

運営会社の株式会社BeChefは、福岡と京都ですでにシェアキッチンをオープンさせており、今回の渋谷が3店舗目。問い合わせや出店希望が続々と同社に寄せられていることから、引き続き急ピッチでシェアキッチンを全国展開して予定です。

BeChef SHIBUYA公式ページ

素敵な料理で暮らしに彩りを与えてくれる、シェアキッチンの普及に期待

コロナ禍に揺れるいま、自炊する動きが高まってきていますが、多忙な現代人の食生活を支える上で、やはり外食は欠かせないものです。

新型コロナウイルスの終息にはまだ時間がかかりそうですが、暗く落ち込んだ私たちの暮らしに彩りを与えてくれるのは、やはり日々の食事でしょう。シェアキッチンの普及とともに、素敵なメニューとの出会いが増えるよう期待したいものです。

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店舗BGMアプリ「モンスター・チャンネル」が運営する店舗運営情報magazineの編集責任者。