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「事情があって、少し遅れているだけかもしれない」。そう考えるも、お客様は待てど暮らせど一向に来る気配がない……飲食店を経営していると、一度はそんな経験をしたことがあるのではないでしょうか。

“無断キャンセル”は、その日のために仕込んだ料理も、アルバイトの人件費も全てを無駄にしてしまいます。大量に余った料理を目の前にして、呆然と立ち尽くした方も多いはず。事実、無断キャンセルによる被害額は年間200億円とも言われています。

無断キャンセルは、飲食店にとって大きな打撃です。繰り返さないためにも、「お客様に損害賠償請求することは可能なのか?」「無断キャンセルを防ぐ方法はないのか?」といった疑問は尽きません。そんな無断キャンセルに関するさまざまな疑問について、弁護士である石崎冬貴先生にお話を伺いました。

 

プロフィール:
石崎冬貴
神奈川県弁護士会所属。弁護士、社会保険労務士に加え、フードコーディネーターなど食品・フード関係の資格も持ち、食品業界や飲食店を中心に顧問業務を行っている。著書に、「なぜ、飲食店は1年でつぶれるのか?」(旭屋出版)がある。事務所名:弁護士法人横浜パートナー法律事務所
事務所URL:https://ypartner.com/

 


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そもそも、無断キャンセルでの損害賠償請求は可能なの?

ーー本日はよろしくお願い致します。さっそくですが、無断キャンセルを行ったお客様に対して、損害賠償を請求することは可能なのでしょうか?

石崎冬貴(以下、石崎氏):当然、損害賠償請求は可能です。日本の法律では、口頭の合意でも契約は成立します。もちろん、インターネット上の大手予約サイトや店舗への電話でも同じです。

ーーここで結んだ“契約”について、くわしくお聞かせください。

石崎氏:この“契約”とは、お客様とお店、双方で義務を果たすことです。お店に行ってお金を支払うのが、お客様の義務。一方でお店側は、その時間に人数分の席を空けて、食事を出すというのが契約上の義務行為になります。

ただ、お店に行きもしないし、お金も支払わない……お客様が一方的に契約を解除する「無断キャンセル」は、法律上では“債務不履行”にあたります。その場合、債務不履行に基づく損害賠償請求が可能なのです。

 

損害賠償請求をするには「損害を立証すること」が鍵

ーー損害賠償請求をする際には、お店側はどのようなことが求められるのでしょうか。

石崎氏:損害賠償を請求する際に重要なのは、“予約があった証拠を残せるか”、“具体的な損害額を提示できるか”という、「損害の立証」の点です。

まず、“予約があった証拠を残せるか”についてですが、例えば電話で予約を受けた場合、どのような予約を受けたのか、第三者が見ても明らかな証拠は残りません。「10名5000円のコースで予約を受けた」と主張しても、「そんな予約してませんよ」なんてお客様がとぼければ、立証できなくなってしまいます。

ーーそうなると、予約内容や人数が履歴に残るインターネット上の予約サイトに頼る方が立証しやすいのでしょうか。

石崎氏:そうですね。そういった形であれば、立証しやすくなります。

ーーでは、音声を録音するなどの対策を取れば、電話でも立証は可能ですか?

石崎氏:はい、可能です。最近では、電話で予約を受けた際に端末に「何月何日に〜〜人で〇〇様と予約内容」と入力すると、お客様の携帯に自動的にショートメールが届くシステムを導入しているチェーン店もあります。

ーー「予約があったこと」、「予約の内容はなにか」ということをお客様側にも残る形で、証拠になるものを作っておくべきなんですね。

石崎氏:そしてもうひとつ、“具体的な損害額を提示できるか”ですが、ここが無断キャンセルの損害賠償請求を難しくしている問題でもあります。

損害賠償請求をする場合、具体的な損害額をお店側が立証しなければなりません。「無断キャンセルで無駄になった分の金額を請求する」と一言でいっても、その額が一体いくらなのか。そして、その損害が無断キャンセルによって生じた損害なのかを証明しなければいけません。

ーー無断キャンセルの損害として挙げられるのは、食材費や人件費ですよね。

石崎氏:とはいえ、食材は使いまわせるものでもあります。「その予約が入っていなくても、店は別のお客様に提供するものとして仕入れていたのでは」、「余った食材を他に出したりしていないか」など、細かい証明もしなければならないのです。

人件費も、予約があろうがなかろうが、何かしらの業務はあるわけですから。どれほどの損害が本当に無断キャンセルによって生じたのか、飲食店の現場での立証は難しいのです。

――なるほど。そう考えると、損害額の立証は難しいのですね。

石崎氏:また、逸失利益の証明も損害額の立証を難しくしています。この逸失利益とは、本来なら得られるべきであるにもかかわらず、債務不履行や不法行為が生じたことによって得られなくなった利益のことです。

その10人分の席を空けたことによって、どれだけの逸失利益が出たのか?例えば、10人組の無断キャンセルがあったからと言って、いつも空いている店舗だと、無断キャンセルがあってもなくても、お店の売上はほぼゼロですよね。

“予約があったこと”、“純粋な損害を明確にすること”、“その時間に得られるはずだった利益を証明すること”……これらの要因を全て解消し、無断キャンセルで損害賠償を請求するのは、極めて難しいといえるでしょう。

――つまり、無断キャンセルをされた時には泣き寝入りするしかないのでしょうか。

石崎氏:いいえ、いくつかポイントを抑えれば、立証できる可能性は上がります。一例を挙げると、「事前にキャンセル料を設定すること」です。もちろん、キャンセル料のことをお客様に伝え、支払っていただくことへの同意をいただく必要はありますが。キャンセル料を設定することで、その金額を具体的な損害額として示すことができるようになります。

もしも、10名5000円のコースで無断キャンセルが起きた場合、事前に「無断でキャンセルされた場合、コース金額の100%をいただきます」と一言添えておけば、無断キャンセル時の損害額を定めておくことができるのです。

 

無断キャンセルを行なったお客様をブラックリストに追加したいけど……

ーー最近では、『ドタキャン防止システム』(※)というサービスが出てきましたよね。お店が管理するものではない第三者に個人データを渡すのは、法律的に問題があるのではないでしょうか。

石崎氏:こうしたサービスは、個人情報保護法違反に該当する可能性が高いと思います。お客様は、予約をするためだけに電話番号を伝えていますし、当然ながら「それ以外で使用するために第三者に提供します」という部分は同意を取っていませんよね。そのため、個人情報の目的外利用だと判断されるはずです。実際、全日本飲食店協会が出しているサービスも、直後に、お客さんに同意を取る方法になりました。

※ドタキャン防止システムとは……無断キャンセルへの対策のひとつ。無断キャンセルを行なったお客様の電話番号をデータベースに登録することで、どの番号が無断キャンセルをしたことがあるか、飲食店業界のなかで共有できるようになります。

ーー無断キャンセルに腹が立ったからとはいえ、むやみやたらに第三者に個人情報をほうが良いということですね。

石崎氏:そうですね。もちろん、自分の店のシステム内で、無断キャンセルしたことのある電話番号をメモしておくのは、なんら問題ありません。第三者にお客様の個人情報を提供すると問題になりますので、注意が必要です。

“無断キャンセルを行ったことのあるお客様から、再度予約の連絡がきた”なんて場合に、今後の予約をお断りしたり、前金制でお願いしたりといった対策をとることは、法律的に何の問題もありません。お客様とお店は、あくまで対等な当事者関係なので。

また最近では、ドタキャンがあった場合には一定額を保証するものや見舞金など、予約管理システムの機能のひとつとして、無断キャンセルの際に使えるサービスが公開されています。

ーーそんなサービスが! 本当に飲食店の方が動きやすい良い流れになってきていますね。

石崎氏:そもそも、無断キャンセルする人はお店に来ていないわけですから、お客さんでもなんでもありません。気を使う必要なんてないと思っています。最近では、「ドタキャンするやつが悪く、店舗側が泣き寝入りする必要はないんだ」という風潮になってきているので、無断キャンセルで困っている店舗は、どんどん声をあげるべきだと思います。

参考:全日本飲食店協会「ドタキャン防止システム」

参考:株式会社トレタ『お見舞金サービス』

参考:株式会社favy『ノーショー保証サービス』

 

無断キャンセル対策は「予防」が大切

――無断キャンセルに関していろいろお聞きしましたが、実際に損害額を回収できるのはどれぐらいなのでしょうか?

石崎氏:悲しいことですが、裁判に勝ったとしても、“勝訴した”という判決をもらえるのみです。この判決をお金に変えるための強制執行には、口座番号といった財産をこちらが見つけないといけないのです。飲食店でそうした情報を事前に聞くのは、至難の技ですよね。だからこそ、できるだけ無断キャンセルをされない「予防策」を考えるのが大切です。お店としても、損害を回収したいわけではなく、悪質なキャンセルがなくなり、全てのお客さんに来てもらうことが目的ですから。

先ほどもお伝えした通り、きちんと予約の内容を証拠として残し、キャンセル料についてしっかり明示をしておくこと。もし、貸切や大人数での予約など、大きな金額が動く時には、事前に細かい情報を聞いたり、料金の半額を前金でいただく(デポジット)など、きちんと対策を取っておきましょう。

ーー細かい情報とはどういったものでしょうか?

石崎氏:名前と電話番号はもちろん、もし可能でしたら会社名やグループ名などもお聞きしておくといいでしょう。お客様の情報が何もわからない状態で損害賠償請求するのは、かなり難しいことなので。

ーー本日はありがとうございました!

<了>

 


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magazine 編集部

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店舗BGMアプリ「モンスター・チャンネル」が運営する店舗運営情報magazineの編集責任者。