コロナ禍で揺れるいま、個人で起業したりお店を開いたりすることには大きなリスクがともないます。そのような中、美容業界では安定して収益を生み出せるビジネスモデルのほか、独立・開業を目指す人にとっても低資金かつローリスクで始められるスキームが登場し始めています。
今回は「定額制サブスクリプション」と「シェアサロン」という新しい可能性を秘めるサロン運営の形態をひも解いていきたいと思います。
1.美容業界でも始まった、定額制サービス
2.定額制サブスクのメリットとデメリット
3.定額制サブスクサービスの事例
4.時間と場所を選ばないシェアサロンでの働き方
5.シェアサロンのメリットとデメリット
6.シェアサロンの事例
7.コロナ禍を経て、個人の努力が実を結ぶ時代へ
美容業界でも始まった、定額制サービス
現在、さまざまな業態でサブスク(サブスクリプション方式)によるサービス提供が定着しつつあります。「サブスク」とは、先に料金を支払い、商品やサービスの提供を一定期間自由に受けられるビジネスモデルで、代表的なところで言えば、TVドラマや映画といったコンテンツの配信や、音楽のダウンロード。さらには洋服や家具のレンタルに加え、飲食店での食べ放題まで登場しています。
このようなサブスクは美容業界でも導入が始まっており、特に流行や身だしなみに敏感な女性の間で話題になっています。面接、会議など重要なビジネスの場面や、デートやコンパなどちょっと気合入れたい場合、肌の露出が多くなる夏前、イメージチェンジや気分転換したい場合など、いつでも利用可能なのはうれしいところ。登録している数あるサロンの中からお店を選ぶことが可能なので、サービスを受ける楽しみや新たな発見もあるかもしれません。
利用者側としては、一定の金額でサービスを受けられる安心感があります。また、当日の支払いもスマホなど電子決済やクレジットカードからの引き落としになるので、事前に現金を用意する手間や会計時のわずらわしさから開放されるメリットがあります。
定額制サブスクのメリットとデメリット
サロン側としても、一定の集客が見込める効果があるほか、美容院においてはシャンプー、ブロー、ヘッドスパ、ヘアケアといった、カットに比べ施術に時間がかからないメニューも多いことから、空いている時間を有効に使えるメリットもあります。また、サブスクのアプリを開発・提供する会社を介して予約する仕組みになっているため、利用者の年代、嗜好、生活エリアといった情報を取得しデータ化して、今後のサロン運営に必要な情報として役立てることが可能です。
その反面、これから成長が望めるビジネススキームゆえ競合他社が多数参入することが考えられます。結果、目を引くPRや魅力的なサービスといった差別化できる要素がなければ、他店に人が流れてしまいます。また定額制で気軽に利用できることから、予約を無断キャンセルするような客が出てくるリスクもあります。
定額制サブスクサービスの事例
月額5,980円 全国店舗で通い放題「じぶんdeエステ」
株式会社博心(東京都・新宿区)が展開する定額制セルフエステ「じぶんdeエステ」では、全国の高級エステサロンにある業務用マシンが使い放題。継続的な施術が求められるエステにおいて、サブスクで毎日のように通えるメリットは非常に大きいものです。
月額5,980円で全国28店舗で利用できます。また、2020年7月29日に開業した「有楽町マルイ レディース&メンズ店(東京都・千代田区)」ではその名前のとおり女性だけでなく男性の利用も可能となり、話題を集めています。
じぶんdeエステ
https://jibunde-esute.com
月額制シャンプーやトリートメント定期券を開始。「HEAD LIGHT 公式アプリ」
全国に100店舗以上の美容室を運営する株式会社ヘッドライト(東京都・中央区)では、自社のモバイルアプリ「HEAD LIGHT 公式アプリ」で『シャンプーブロー通い放題』と『シャンプーブロートリートメント通い放題』を展開中。
月額料金はそれぞれ1万2,000円、2万円のサブスクで、名称のサービスを1日1回利用することが可能です。 こちらは、スマートフォンアプリを活用したサブスク型定期券の販売を行うプラットフォーム「Insight Core(インサイトコア)」で入手可能となっています。
株式会社ヘッドライト
https://headlight-inc.com/
株式会社インサイトコア
https://insightcore.co.jp/
時間と場所を選ばないシェアサロンでの働き方
美容やエステ業界で働く人ならば、いつか独立して自分の店を持ちたいと思うのは当然のことでしょう。しかし、独立・開業するにあたり資金調達は大きな問題で、無事資金を得られたとしても月々のランニングコストも発生するため、中長期的に収益を生み出せていける確証はありません。加えて、新型コロナウイルスの終息が見えてこない現状も大きな足かせとなっています。
そのような中、レンタルスペースや既存の美容室の一席を間借りして施術を行う「シェアサロン」が注目を集めています。
シェアサロンでは、従来のレンタルスペースやSOHO用マンションの一室などに施術に使う装置などを導入し、一般のサロンと同じような環境でサービスが提供できます。これにより、エステのほかネイルや整体、マッサージなどの業態で独立したい人の選択肢が広がります。美容院の場合は、既存のサロンが空いている席や洗面台を間借りするスタイルが一般的です。これは、法律上、保健所に美容所登録の届け出がある場所でなければ施術ができない決まりになっているためです。
シェアサロンのメリットとデメリット
シェアサロン最大のメリットは、やはり資金を最小限に抑えられることです。お店のテナント料や毎月の光熱費、人件費がかからないため、非常にローリスクな開業が可能です。さらにはフリーランスで働く人や、子育てや介護をしながら副業で仕事したい人にとって、施術の予約が入ったときに場所を押さえればよいため、空き時間を有効活用できます。
特に最近は新型コロナウイルスの影響から人の動きに制限が出ていることもあり、公共交通機関での移動を避け、なるべく自宅や職場の近場で済ませたいといった顧客の希望もあることから、「立地」という条件にしばられないフレキシブルなビジネス展開が可能です。
シェアサロンのデメリットは施術に必要な器材や薬品などをすべて自前で用意しなくてなならず、移動の際に手間やコストがかかることです。特に美容師の場合、ハサミやシャンプーなど液体の入ったボトルなどを携帯して移動するだけでも大仕事です。
また、業界で一人立ちしていくためには「お店」ではなく「自分」を売らなくてはなりません。PR戦略を立て、どのように顧客獲得していくか自分一人で考えていくことが求められます。最近はブログやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の普及によって、出費なしに自己PRできる時代になりましたが、接客とは別に、経費清算や仕入れといった地道な裏方業務も一人でこなさなくてはならないのです。
シェアサロンの事例
都内の一等地でオーダーメイドの施術が受けられるシェアサロン「Qnoir」
北青山(東京都・港区)で展開する複合型シェアサロン「Qnoir(クノア)」では、美容師、ネイリスト、スタジオトレーナー、整体師、占い師など各分野で活躍するプロフェッショナルが集い、各種サービスを提供。面接で厳選されたスタッフによる施術が受けられる安心感もあります。
まつ毛エクステと同時にネイルするといった組み合わせも可能で、顧客としては時間を有効に使いつつ、都内の一等地で洗練されたデザイン、空間の中でサービスを受けることが可能です。
Qnoir(クノア)
https://www.qnoir.com/
本格的な設備環境を提供し、美容師の独立を支援する「THE SALONS Lab」
完全個室型美容室モール「THE SALONS」を運営・展開するThe Salons Japan株式会社(東京都・世田谷区)では、美容師の独立支援プラットフォーム「THE SALONS Lab」にてシェアサロンサービスを開始。
同サロンが保有する銀座店(東京都・中央区)内の一区画を貸し出すもので、シャンプー台、鏡、セット面を無料(1回3時間まで)で利用できるサービスです。同社では、フリーランスで働く美容師に本格的なサロンでの業務を体験してもらい、将来的な独立に向けた支援をしていく方針です。
THE SALONS Lab
https://lab.thesalons.co/
コロナ禍を経て、個人の努力が実を結ぶ時代へ
事業縮小や倒産にともなう解雇など、新型コロナウイルスの影響が少しずつ見え始めており、今後その動きに歯止めがかからないとも言われています。しかし、そのような時代だからこそ、特定の組織に頼らない個人の力が試される機会が来たとも言えます。
定額制サブスクやシェアサロンは、新しい時代のチャレンジャーを支援するビジネススタイルとして今後さらなる発展を遂げていくことでしょう。