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2016年4月13日から4月16日までの3日間、国内最大級の規模で中食・外食分野の課題を解決する提案型の展示会、ファベックス2016が開催されました。

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ファベックス2016では様々なセミナーも開かれ、「人手不足解決ソリューションコーナー」では深刻化する人手不足に対して各社の持つノウハウを学ぶ機会が設けられました。今回OMISE Lab編集部が参加したのは、天ぷらを主軸商品とした和食ファーストフードの第一人者、てんやが行った人手不足対策を題材としたセミナー。

てんやは「天ぷらを大衆食にする」というコンセプトをもとに1989年、東京駅八重洲地下モールに一号店を構えてからというもの、30年弱の間に全国185店舗(2016年4月健在)まで拡大しています。

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どの業種でも人手不足が叫ばれるなか、売り上げで快進撃を続けるてんやの取り組みとはどのようなものなのでしょうか。

株式会社てんコーポレーション代表、用松靖弘氏によるセミナーの模様をお届けします。

 

テイクアウトは青空天井!

外食産業が逆境に立たされるなか、てんやはこの3年間で堅調な成長を維持し、業界トップにまでなりました。その平均月商は、既存前年比44か月連続の成長を果たしています。

創業当時、1,000円以上支払わなければ食べられなかった天丼を半額でワンコインの500円で提供できたことから支持を集めたてんやですが、ここまで大きく展開できた背景には、ある設備の開発が大きく関わっています。

(用松)「1人前の天ぷら職人になるには10年以上の修行が必要と言われていますが、てんやは職人の揚げ技術を研究し、高品質の天ぷらを均質に提供できるオートフライヤーを開発しました。これによって商品の品質を上げるだけでなく、省人化をも実現させました。」

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てんやはこのオートフライヤーにより、3つのコアコンピタンス(競合他社には無い強みや武器、得意分野)を確立することとなります。品質にムラがなく、どの店舗でも均一の美味しさを届けることをオートフライヤーが可能にしました。180℃の高温で揚げながら油切りもでき、サクサクした天ぷらを製造できるこの設備は、温度と時間をコンピュータープログラムで制御しています。

(用松)「てんやのコアコンピタンスの1つ目は、短期間で誰でも熟練した料理人の技術を習得できる点。2つ目は、高品質の天ぷらを手頃な値段で、手早く提供ができる点。3つ目は、どの店舗であっても同じサービスを提供できる点です。てんやの特徴はテイクアウトコーナーにあります。テイクアウトはたとえ店舗の規模が小さくても、製造できる力やオペレーション力があれば売り上げは伸びていきます。まさにテイクアウトは青空天井といえるでしょう。」

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3つ目のコアコンピタンスとして語られている通り、てんやの強みはテイクアウトです。テイクアウトの売り上げは全体の30%を占めており、今後予定されている複数税率の導入以後においても特に重要なものとなっています。

(用松)「てんやは店内の座席が少ない小さな規模の店舗であっても、テイクアウトで売り上げを獲得しています。コアタイム時は店内の客数とほぼ同数でテイクアウトのご注文がありますが、店内でのサービスとテイクアウトで商品の提供を同時にこなすことも、オートフライヤーが可能にしています。」

また、てんやは幅広い年代に合わせた商品開発も行っています。他の飲食店チェーンとは異なり、四季折々の食材やご当地の食材を使用することで新たな商品開発ができるのも、天ぷらをメインに扱っているてんやの強みとも言えます。

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(用松)「日本には四季がある。てんやには旬があるということで、年8回、旬の食材を使って皆様にアピールをしています。ワンコイン、500円での提供は働く現役世代に向けてであり、季節の商品は年配の方に向けたものとなっています。それから天丼は年配の人が食べるものというイメージもありますが、若い人にも食べてもらいたいということで肉天丼を提供しています。」

 

1人1人のクルーが高いスキルを持てるような人材開発

「外食産業は人間業」と語る用松氏は、「人をどう動かすか」を最重要課題として経営を行っていると語っています。全業種における経営課題が人材不足だったバブル崩壊前からおよそ30年が経とうとしている現在でも、深刻な人材不足に陥っている現状で、てんやはどのように人材開発を行っているのでしょうか。

(用松)「てんやの人づくりとして、T型(てんがた)人間というものがあります。横軸は豊かな人間性、これが全てのベースとなります。縦軸は深掘りした専門性です。縦軸と横軸のバランスで地道に前向きにやっていくというのがサービスの根底にもなります。」

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全社員のうち、約150人が店長として働いているてんやでは、各々に差はありつつもリーダーとしてこの「T型人間」を重要視しています。これに加え、てんやは4年前より「クルーフルセクション化」という新たな取り組みを始めました。

(用松)「パートやアルバイトのクルーは、店舗でホール担当とキッチン担当に分かれています。しかし採用時に担当していなかった分野であっても最終的に全て担当できるようにしてしまおうと、店長と同じレベルの業務ができる人を計画的に増やしていくことを目標としています。」

ベルトコンベアー的に仕事に慣らしていくことから始め、最終的には1人が全て組み立てていくことで生産性を一気に上げる……この方法をてんやは独自にアレンジしているのです。現在は半分以上ものパート・アルバイトさんにおいてこのクルーフルセクション化ができており、この制度の利点が生まれているといいます。

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(用松)「この制度の1つ目のメリットは1人のクルーが全ての業務をできるため、少ない人数で店舗を回せる点です。少ない人数でもワークスケジュールが立てやすくなります。2つ目はピークタイムのオペレーションが強くなります。ホール業務が分かったキッチン担当のクルーとキッチン業務が分かったホール担当は、お互いのことを考えて行動します。逆にホールに人が少ない時にも、キッチン担当がホールに来て注文を取るなど、お客様をお待たせさせない対応ができます。」

クルーにはそれぞれ得意なことと苦手なことがあるため、完璧にスキルを身につけさせるのは難しいものの、およそ3ヶ月を目安にクルーフルセクションでの人材開発を行っているというてんや。1人1人のクルーが持つ高い能力が、お客様により良いサービスを提供できることに繋がっているのです。

 

逆転の発想が状況を変えた、外国人クルーの採用

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多様な人材を積極的に活用するダイバーシティー化も進めているてんやでは、現在約300人ほどの外国人クルーが働いています。しかし外国人クルーには当初は裏方で雑務を担当してもらうといった、消極的な採用を行っていました。そのような状況を変えたのは、とある店長でした。

(用松)「クルーの半数以上が外国人というある店舗では、クレームが非常に多い状態でした。そこに赴任した店長は「裏方で働いてもらうのではなく、指導を徹底して表に出していこう、戦力化していこう」と決意し、指導を行っていくことを決めたのです。指導を受けた外国人クルーの方々は様々な業務ができるようになり、クレーム数でワーストワンだった店舗は1年後、クレームがほぼ無くなりました。それだけでなく、売上も10%ほどアップし、お客様からの評判も良くなりました」

この店長は「環境が変わらないのなら、逆にその環境を生かせ」と言い、指導を行ったそうです。逆転の発想がクレームの多発していた店舗を変えたのです。

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また、てんやは今年より外国人クルー向けのオリエンテーション資料を作成しました。お客様への対応について、日本人の特徴を踏まえて学ぶことができる資料となっているとのことです。こうした取り組みをはじめ、てんやは外国人クルーの採用について避けて通れないものだとも思っていると語ります。

(用松)「日本人だけで必要なクルーが揃えば良いのですが、そういう環境下にないのであれば、与えられた条件の中で如何に効率的に効果的にやっていくかが重要です。外国人クルーの方々は海外から語学留学のために日本へ来た若い人が多いので、基本的には指導したことの吸収も早いですし、きちんと我々が教えてあげればしっかりと育っていく方が多いのです。」

 

おわりに

フランチャイズ化により、関東のローカルチェーンから日本のナショナルチェーンとして世界に向けたグローバルな展開を目指し、舞台を大きく広げていったてんや。それができた理由は、設備や商品の開発はもちろん、「人をどのように活かしていくか」を課題として人材開発に取り組んできたことに他なりません。これからも発展を続けていくであろうてんやの今後にも注目です。

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店舗BGMアプリ「モンスター・チャンネル」が運営する店舗運営情報magazineの編集責任者。