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飲食業界は、一般的にIT化への対応が遅れがちであると言われます。その飲食業界において、国内大手チェーンである吉野家がITを活用した新たな取り組みに乗り出したことはご存知でしょうか。その取り組みとは、スタッフへの指導、商品に関する情報共有などを数十秒単位の動画クリップで行うコミュニケーションプラットフォーム、「ClipLine」の全店導入。

過去にもOMISE LabではClipLineを手がけるジェネックスソリューションズ代表の高橋 勇人(たかはし はやと)氏に取材を行い、多店舗展開型ビジネスを動画クリップの技術がどのように変えていくかについて詳しくお話を伺いました。

 
スシローを救った男、高橋勇人氏に聞く。チェーン展開をスマート化する”動画クリップ”のキセキ。【前編】

多店舗展開の心強い味方!ClipLineの導入で「最強のチェーン店」を目指そう【後編】

 
では、実際に導入し、活用をはじめた吉野家には、どのような変化が起きたのでしょうか。株式会社吉野家で執行役員企画本部長を務める鵜澤 武雄(うざわ たけお)氏のお話を通じて、「飲食×IT」の未来について探っていくことにしましょう。

(取材・編集:OMISE Lab編集部)


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飲食店がペーパーレスに!ツール導入によって無くなるムダ

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商品サイクルの早いファストフード業界では、各種のマニュアルが新メニューの作り方から、店内清掃の手順、お客様への基本的な接客をはじめ、現場スタッフへの情報伝達を標準化する役割を担っています。

しかし、メニュー改訂の度に分厚い紙のマニュアルが本部から送られてくるようでは、ただでさえ忙しい飲食の現場がさらなる混乱に陥ってしまうことも。実際に、ClipLineの導入以前の吉野家を苦しめていたのも、紙マニュアルベースの現場に特有な「情報の煩雑さ」という悩みでした。

鵜澤氏:

かつては本部で作成したマニュアルを店舗に配信していたものの、スタッフが作業と並行して分厚いマニュアルを読むことはできません。そこで店舗が何をしたかというと、分厚いマニュアルを要約したマニュアルの作成でした。しかし、マニュアルが増えることでかえって情報が氾濫し、何が本当に求められているのか、どのマニュアルを手に取ればいいのか、受け手側のスタッフとしてはそのポイントがよくわからないという問題が発生していました。

ClipLineに白羽の矢が立ったのは、そうした煩雑さを抑えるためでもありました。平均20秒あまりと短い動画クリップの連続からなるClipLineであれば、受け手側もポイントを把握しやすいのが大きな魅力。さらには店長とスタッフ、もしくはスタッフ同士のコミュニケーションツールとしても役立てることができるという点も、ClipLine導入の大きな決め手であったと言います。

鵜澤氏:

当社のスタッフは、お客様がいらっしゃらないときでもお客様の来店に向けての準備をしているため、現場での隙間時間は充分とは言えません。さらには、体を動かす仕事である以上、長尺の動画を事務室でじっと見るよりも、作業をしながら見る方が目的に適っています。そのため、ポイントを数十秒の尺にギュッと絞った動画クリップの存在は大きかったと思います。

時を同じくして吉野家は店舗のペーパーレス化に踏み切ることに。マニュアルとは、スタッフの体の動かし方に働きかけて初めて効果が現れるものですが、ClipLineで教育のポイントを絞って伝えることで、接客サービスや調理にまつわる教育時間だけでなく、新商品を導入したときのリードタイムまでも短縮することができたといいます。

ツールの導入やペーパーレス化への移行は、それ自体が「目的」であるわけではなく、あくまでも「手段」であるとはいえ、店舗全体の業務改善の呼び水になることは間違いがなさそうです。

 

ツールの導入は「人手不足」の解消にも効果アリ!?

「人手不足」は今や、飲食業のみならず、店舗展開ビジネス全般にとっての慢性的な頭痛のタネとなっています。せっかく教育したスタッフが職場に定着しない……そもそも面接に応募が来ない……そんな悩みを抱える店長を、テクノロジーが救ってくれたとしたら?

まるで魔法みたいな話ですが、ClipLineを導入した吉野家では、外国人スタッフの教育や評価を中心に、実際に効果が現れているといいます。

鵜澤氏:

当社にはClipLineを導入する以前より、外国人スタッフが非常に多く在籍していましたが、外国人トレーナーが外国人スタッフを教育するシステムにも限界がありました。しかしClipLineを通じると、活字では表現できない微妙なニュアンスや文化の違いによる接客サービスについて上手くコミュニケーションを取れる。これは非常に大きなツールだと感じました。

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まさに活字や言語にとらわれない動画ツールの面目躍如といったところですが、映像を通じた双方向のコミュニケーションは、教育役がその場に居合わせるという制約を取っ払っただけでなく、同じ店舗で働いているスタッフ同士の絆を生むことにもつながったといいます。

鵜澤氏:

吉野家は24時間営業なので、たとえ同じ店で働いていても曜日や時間が違うスタッフ同士が顔をあわせることは少なく、コミュニケーションが希薄になりがちでした。店舗になじめないことを理由にスタッフが離職してしまうのも課題のひとつでしたが、今では新人もClipLineを通じて新しいコミュニティに入ることが可能になりましたね。

実際に、ClipLine導入のメリットはSNS世代である新人スタッフの離職率の低さにも現れつつあるとか。職場への帰属意識を高めるコミュニケーションツールの存在は、教育コストや求人コストなどの間接人件費の削減にも効果を発揮しそうですね。

 

テクノロジーは、「人」のサービスを純粋にする

しかし、ここでひとつの疑問が生じます。もしもツールの導入が店舗の業務改善につながるのであれば、「飲食業界はIT化への対応が遅い」と指摘されるまでもなく、ありとあらゆる店舗に各種ツールが実装されているはず。では、飲食業のIT化への対応を阻んでいる理由とは、一体なんなのでしょうか?

その答えは、飲食業界ならではの思考慣習にありました。

鵜澤氏:

実は、当社に初めてグループウェアが入ったとき、社内でも反対の声が多くありました。それは、「我々が手がけているのは人と人とのサービスなので、社内の仕事のやり方もあくまでフェイストゥフェイスだろう」という意見があったためです。

グループウェアとは、企業内でのスケジュール管理やドキュメント管理、勤怠管理などの機能を一括で行うことのできるシステムのこと。しかし、鵜澤さんは「教育」や「評価」、その他にも店舗を取り巻く様々なコミュニケーションを可能にするClipLineに、グループウェアの進化形を感じているといいます。

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では、このような新しいテクノロジーの導入により、飲食業にとっての「フェイストゥフェイス」の価値観が損なわれることはないのでしょうか? 最後に、「飲食×IT」の未来について鵜澤さんにお伺いしました。

鵜澤氏:

当社としては、テクノロジーに置き換えられるものは、すべて置き換えようとしています。その一方でお客様と接するところ、つまり「接客」と「調理」は人の手で行うようこだわりを持っています。これら根幹にある作業の時間を削るのではなく、そのぶん、お客様へのサービスと商品の調理にあてることこそが、我々外食業界が今後成長していく唯一の方法だと思っています。

ClipLineであれば、動画クリップにより生身の人間が手を動かす様子を伝えていく。ツール導入の主眼点は「生身の人間のサービスを向上させること」にあります。テクノロジーの世界は日進月歩で進んでまいりますので、そこにはしっかりビジネスで取り入れて、我々は「人」というところに注力したいと思っております。


ClipLineであれば、動画クリップにより生身の人間が手を動かす様子を伝えていく。ツール導入の主眼点は「生身の人間のサービスを向上させること」にあります。テクノロジーの世界は日進月歩で進んでまいりますので、そこにはしっかりビジネスで取り入れて、我々は「人」というところに注力したいと思っております。

テクノロジーは時間やコストの削減に役立つだけでなく、「人と人とのサービス」という飲食業の根幹にある精神を純粋化させるということ。吉野家によるClipLine導入の事例から見えてくるのは、そんな「これからの時代」にとってのスタンダードなのかもしれません。


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店舗BGMアプリ「モンスター・チャンネル」が運営する店舗運営情報magazineの編集責任者。