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お店を長く続けていくために、欠かせないのが「リピーターの獲得」

サービスのファンとなって足繁く通ってくださるお客様の数は、お店の「信頼」を表すパラメーターにもなります。

今回お邪魔したのは、食の激戦区「六本木」で40年にわたって愛され続けている老舗「串喝 知仙」

串揚げを中心とした日本料理を提供し、舌の肥えたお客様を楽しませ続けている名店ですが、「金八先生」でお馴染みの武田鉄矢さん行きつけのお店としてTV番組で紹介されたこともあるとか!

知仙料理2

 

「仕入れ状況に応じて、毎日メニューが変わる」「それぞれのお客様に合った食材や料理を提供するおまかせコース」など、知仙の「おもてなし術」には老舗高級店ならではの知恵が隠されていると言えます。

そこでOMISE Lab編集部は全席カウンターの店内で数十年間お客様の前に立ち続けてきた料理長、猪狩博行さんに取材を行い、仕入れテクから接客コミュニケーションの肝まで、常連客に愛されるお店作りについて学んできました。

 

「串喝 知仙」料理長・猪狩 博行さんインタビュー

料理長の猪狩博行さん。いかにも板前さんといった人情味溢れる笑顔が魅力です。

料理長の猪狩博行さん。いかにも板前さんといった人情味溢れる笑顔とトークが魅力です。

— 知仙さんは、鎌倉の禅寺をイメージした内装とお聞きしましたが、本当にゆっくりと過ごせそうな空間ですね。

そうだねえ。うちは、40坪あるんだけど、全席カウンターで26人しか座れないんだ。

— すごい贅沢ですね。

だから大変なんだけどね(笑)回転率や客数ばかり気にしていたらこんなことはできない。

うちの店は、お客様にゆっくり落ち着いて食べていただくのがコンセプトなんだ。

例えば、お客様のグラスが空く瞬間ってあるよね。特にうちは全席カウンターだから、1人1人のお客様の表情や状況がわかる。だけど、押し売りはしないんだ。すかさず次の飲み物をすすめるのが良いサービスだという考え方もあるけど、お客様のペースで飲んでもらいたいんだ。

知仙店内の様子。調理場を大きくU字型に取り囲んだカウンター構造が、顧客接点を増やすコツ。

知仙店内の様子。調理場を大きくU字型に取り囲んだカウンター構造が、顧客接点を増やすコツ。

— なるほど、一人ひとりのお客様を大事にしているのがすごい伝わります。

元々は、お酒好きのオーナーが、自分が楽しめる店ということで「お酒飲みがゆっくり落ち着いて食べられる」というのがお店のスタンスだからね。

「知仙のおまかせコース」の裏に隠された、ベテランの仕入れテク

— お酒飲みが楽しめるお店づくりということですが、まず、この「おまかせコース」についてお聞かせください。

お客様の食べるペースに合わせて1串づつ揚げ、串の合間に小鉢を出していき、お腹がいっぱいになったら「ストップ」をかけてもらう。それが「おまかせコース」。今日だったら串揚げは42種類くらい、小鉢料理もそれだけで和食屋ができるくらいの種類を用意しているよ。一般的に、和食屋はだいたい月単位でメニューを決めると思うけど、うちは毎日メニューが変わる。

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— お客様は毎回新しい料理や食材と出会えるというわけですね。

そうだね。あとは、季節ごとに旬の食材を活かすことを意識してるから、「知仙にくると四季を楽しめる!」と定期的にきてくれる常連さんも多いね。

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また、お客様によって出すものを変えてるんだよね。2人で来店されたとき、それぞれ違う料理を提供することだってある。1人1人のお客様によって好みは違うからね。

それぞれの料理人がお客様を担当していて、前に来てくださったときに何を提供したか、記憶を辿って料理を提供する。記憶力がだいぶ衰えて、覚えていないときがあるのも事実だけど。あとは笑ってごまかすしかない(笑)

— (笑) ということは、おまかせコースはお寿司屋さんと同じような仕組みですね。お客様とのコミュニケーションは大事ですね。

そうだね、お客様とのコミュニケーションはすごく大事にしてる。全席カウンターにしているのも、お客様との会話を大事にしているからだね。うまいもんを出すのは当たり前。+αで料理人とのコミュニケーションやサービスで価値を提供しなきゃね。

— なるほど。うまいもんを出すのは当たり前とありましたが、知仙さんは素材にこだわっていると聞いています。どのようにその素材を仕入れているのでしょう?

まず毎日築地に行く。やっぱり仕入れの業者さんがその日の食材について一番知っている。だから、まずは業者さんと仲良くなる。それも、朝早く行くと忙しくて相手にしてくれないから、少し遅らせて行く。そうしていくと、いい食材はもちろん、いろんな情報をもらえるんだよね。こういう関係を築くには足繁く通って、直接話すしかないね。続けることが大事。

串揚げの素材としては珍しいポルチーニ茸。恥ずかしながら、生の状態を目にしたのは初めてでした。

串揚げの素材としては珍しいポルチーニ茸。恥ずかしながら、生の状態を目にしたのは初めてでした。

— 食材の購入にあたり、意識されていることなどありますか?

仕入れにおいて、ロスとの戦いは切っても切れない。原価率にうるさいお店だと、良い食材でも、原価率が高かったりロスが出そうだと、手が出せない時っていっぱいあると思うんだ。そういう意味では、うちは仕入れた食材によって毎日メニューや料金を変える。そうでないと、臨機応変に対応できなくて、結局損が出るんだよね。だから、食材ありきで全て決める。一般的なお店では、例えば原価率は3割以内みたいに、一定のルールが設けられて仕入れていると思うんだ。けど、うちはそうじゃない。

原価率で見るんじゃなくて、逆算して料金設定や売上を考えるんだ。その食材で提供できる料理や数を算出し、必要な売上を計算する。その数字よりも上澄みが出ればそれが儲けになる。そうすれば、お客様からどれくらい料金をいただくべきかわかるよね。一方で、メニューによっては原価割れしているメニューもあるんだ。そのバランスが大事だね。

 

 

「食は教育だ」一流店による常連の楽しませ方

—原価率ありきではなく、いい食材を仕入れることに徹底的にこだわり、それが結果的にお客様へのサービスや満足に繋がっているんですね。少し話が戻りますが、お客様へのサービスとしてコミュニケーションを大事にしているとおっしゃっていましたが、具体的に聞かせてください。

猪狩さん:
まずは、食べられない食材や、嫌いな食材をあらかじめ聞く。そこで少し遊ぶんだよね。
— 遊ぶとは?

前にあったのは、何が嫌いかを聞いて、「しいたけが苦手です」と言われたら、「どこが苦手?」と聞いた。「香りが・・・」と言われたから、今まで美味しいしいたけを食べたことがないのかなと思って、3品目くらいにあえてしいたけを出したんだ。実際に食べてみると美味しいって言ってくれた。こうやって、食における発見や新しい出会いをお客様に提供する、つまり食で教育していくんだよね。

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— 食で教育する、なるほど、それはとても興味深いお話ですね。

お客様の好き嫌いなど、食における様々な会話に耳を凝らし、サービスやコミュニケーションに活かすんだ。業者さんから仕入れた情報はもちろん、我々が持つ情報や知識をお客さんに提供する。それが食で教育するということだね。

一方で、お店もお客様と一緒に進歩していくべき。例えば、メニューとして用意していなくても、お客様から要望があって食材もあれば、その場でつくることもある。

料理写真5

客単価は少し飲んでもらって平均12,000円くらいと決して安くない。自分へのご褒美など特別な日として来店されるお客様も多い。また足を運んでもらうには、当然満足していただかないといけないから、お店も常に進歩しないとね。

— また来ていただくには、お客様の期待値を常に超えていかなくてはなりませんよね。

そうだね。けど、どうしても忙しいときなんかは、お客様が落ち着いて食べれないなんてこともある。そんなとき、忙しさを理解してくれ、「もう出るから会計して。待ってるお客さん入れてあげて!」と我慢してくれるお客様もいるんだ。とっても有り難いよね。

— まさにお客様との信頼関係ですね。いつも変わらぬ猪狩さんの人柄と、毎回変わるメニューのギャップが、また来たくなる理由なんだなと感じました。

照れるね(笑)変わるといえば、季節感を出すために、あそこにある掛け軸の中身は半月に1回、その下の花は5日に1回は変えてるよ。あと、箸置きは毎日違うよ、しかも食べれる野菜にしてる。

— ええ!それは面白いですね、すごくワクワクします。

旬の食材を提供すること、季節を感じていただけることは、次にお店にくる楽しみにもなるからね。最近は若いお客様もwebサイトを見て来てくれるんだけど、そこでは季節にちなんだ旬の食材の紹介をメインに発信してるよ。私が更新してたら朝になっちゃうから、別の人にやってもらってるけど(笑)

入り口脇に飾られた手ぬぐいの掛け軸。

入り口脇に飾られた手ぬぐいの掛け軸。

こちらが野菜を利用した箸置き。今日の食材は見た目にも新鮮な青南蛮でした。

こちらが野菜を利用した箸置き。今日の食材は見た目にも新鮮な青南蛮でした。

 

 

編集後記:変化の街、六本木に根付いた「伝統と進化」

六本木は、お店の入れ替わりも激しく、出ては無くなりを繰り返すめまぐるしい街です。時代と共に客層も大きく変わっていることでしょう。そんな街で、知仙さんは40年もの間、ゆったりとした時間が流れる落ち着いた空間でお客様を迎え続けています。

そんな変わらない佇まいの中で、毎日変わるメニューや野菜の箸置き、季節を表現した装飾など、常に進化と変化を取り入れていることこそ、お客様に愛され続け、六本木で長い間生き残っていく秘訣なのではないかと感じました。

■知仙さんのリピーター獲得術

  • 毎日変わるバリエーション豊富なメニュー
  • お酒飲みがゆっくり落ち着いて食べられる店作り
  • 押し売りはしない(お客様にはお客様のペースがある)
  • 季節ごとに旬の食材を活かし、四季を楽しめる料理
  • お客様によって提供する料理を変える
  • お客様とのコミュニケーションを大切に
  • 過去に食べたものや好き嫌い、お客様との会話を記憶し、サービスに活かす
  • 毎日築地に行き、業者と仲良くなる。忙しくない時に行くのがポイント。
  • いい食材だけでなく、生の情報を仕入れる
  • 原価率に囚われ過ぎない(時に原価割れしているメニューも存在)
  • 原価率ありきではなく、逆算して料金設定や売上を考える
  • お客様を食で教育していく
  • お店もお客様と一緒に進歩していくべき
  • お客様から要望があれば、その場で新しいメニューを作ることもある
  • 掛け軸、花は定期的に変え、季節感を出す
  • 箸置きに食べられる食材を使い、ちょっとした驚きと楽しさを
  • webサイトでは季節にちなんだ旬の食材を紹介

高級店を目指す経営者の皆さん、リピーター獲得に日々取り組む皆さん、このリストに挙げられた中で、どれだけの項目を実践されていますか?

老舗の知恵を参考に、みなさんも長く愛されるお店作りを目指してくださいね!

 

■お店情報

串喝 知仙

http://www.chisen.net/

東京都港区六本木7-16-5

定休日:月曜日

営業時間:17:30~23:00


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店舗BGMアプリ「モンスター・チャンネル」が運営する店舗運営情報magazineの編集責任者。