飲食業界における大きな問題といえば、人手不足です。
これまでOMISE Lab編集部はこの問題を解決するために様々なご提案をしてきました。応募率を上げるための求人広告の出し方や、厨房の人員の不足を補う「新調理システム」など、人手不足でお悩みの方の中にはすでにチェックされた方もいるでしょう。
しかし、ここでひとつ皆さんにお聞きしたいことがあります。あなたのお店は「人手不足」なのか、「人材不足」なのか、どちらでしょう。猫の手も借りたい忙しさの「人手不足」か、それとも優秀と思えるスタッフがいない「人材不足」なのか。人手不足であれば求人広告の改善や調理システムの導入により改善するかもしれませんが、「人材不足」問題では“育成”が重要になってきます。
どうせいつかは辞めるんだし、育成なんて……。そう考えていては、いつまで経ってもスタッフは成長せず、育成のノウハウは貯まらず、いわゆる「ジリ貧」状態がずっと続くことになるでしょう。
そこで今回は、お店のスタッフに心のこもった指導をしている、宮城県は石巻の日本料理店「四季彩食 いまむら」の店主、今村正輝さんにお話を伺いました。
単なる「人手」を、お店を作り変える「人材」、いや「人財」へと変えるヒントがあるかもしれません。
石巻の日本料亭、「四季彩食 いまむら」ができるまで
–どのような想いを持って、このお店を開業されましたか？
きっかけは東日本大震災ですね。震災以前、私は栃木県の日光の料亭で弟子入りをしていたのですが、震災後、ボランティアをするために石巻に移りました。
中央商店街のお店の再生をお手伝いする「店舗再生班」というボランティアをする中で、石巻の食材の豊富さと、それにも関わらずお店を再開される方が少ないこと、さらにお店を再開された方々がご高齢で若い人がほとんどいないことに気づきました。
人口が流出していく石巻の助けになりたいという想いと、ボランティアの活動で知り合った漁師や農家、問屋といった仲間が店作りを手伝ってくれたことが開業した理由ですね。
–なるほど。開業されてからこれまで、スタッフを採用する段階で気をつかわれたポイントがあれば教えてください。
これまでは特に募集はしていなかったんですが、何ごとにも全力で熱いスタッフが集まって来てくれています。今後募集に踏み切ったとしても、「何がやりたいか」「どうなりたいか」を話せる人を雇っていきたいと考えています。現在いるスタッフはみんな、独立を目指して頑張っていますよ。
料亭いまむらの育成方針：「喋らないもの」に愛を持ち、世界を見ろ！
–スタッフの育成について、いまむら様ではどのような取り組みをされていますか？
ひとつには、常に「喋らないもの」に愛を持つことです。「喋らないもの」–つまり調理器具や食器、食材ですね。やはり人の口に入るものですから適当な仕事はできません。どの食材も乱暴に扱ってはならないと思っています。道具も同様で、天候や気温など様々なコンディションで状態が変わってしまうものですから、愛情を持って扱わせることを徹底しています。
また、日本全国や世界を回ることを推奨していて、県外に出たことのない子にはよく青春１８切符の旅をさせ、各駅列車の旅とゲストハウスの宿泊を義務付けています。お店と一緒で、その日の状況でルートを決めて、一期一会の大事さや楽しみを味わってほしいと思っているからです。また、日本中の特産物、文化、お酒などを知り、どんな方が来ても会話ができるようになるのも狙いですね。
それから、常に「何故？」と問いかけること、お客様の立場で自分を見つめ直すことについても指導して徹底させています。
また、そのほかにもバンドなどをスタッフみんなでやって、店員とは違う形でお客様の前に立つようにもしていますね。遊びも全力ということを、スタッフともお客様とも共有したいという想いがあります。
スタッフや店舗の成長のために、自分がまず成長したい
–では最後に、店舗やスタッフの将来についての質問です。人材育成のゴールについて、どのようにお考えでしょうか。
いまむらでは、未経験者は基礎修行として３年一緒に頑張ろうと伝えてあります。その後は人それぞれ。東京や世界を経験したほうがいい方もいるかもしれませんし、独立間近な人間には２店舗目のメニュー決めや簿記まですべてを任せるかもしれません。
それから、近い将来、石巻の若者がもっと独立したいと思えるように経営の学校のようなものも作りたいと思っています。そのためには今の自分をもっと成長させたいですね。
