求人難の今、飲食店経営者の悩みといえば「店舗で働いてくれる従業員が集まらない」こと。だからこそ、高い時給だけでなく「おいしいまかない付き」をアピールポイントとして従業員募集を行う店舗もみられます。一人暮らしをしている学生にとってまかないが食べられる店舗は魅力的に見えることから、応募のきっかけ作りに有効な手といえるでしょう。また、食材を無駄なく使って調理されるまかないは、食材のロスを防ぐ点では店舗としても嬉しいもの。
しかし、ここで気をつけなければいけないのは、まかないを提供するうえでの金額。もしも採算度外視の豪華なまかないを無料でスタッフに提供していた場合、まかないが「現物給与」として見られる場合があります。そして税務署から指導を受けるだけでなく、差額分を追徴課税として支払うことが求められるかもしれません。
ではまかないを提供するうえで、具体的にはどのような点を守っていけばいいのでしょうか。今回は、まかないについての注意点を解説します。
豪華なまかないは、なぜ問題?
従業員へのサポートを手厚くし、できるだけ長く働いてもらいたいという願いのもと、美味しいまかないを食べさせてあげたいと考える経営者の方も多いはず。
しかし金額を気にせずにまかないを提供し続けたことで、税金の精算の時に1人当たり7万円、スタッフ10人分で約70万円を追加で課税されたというケースが過去にあったようです。
食事や商品を従業員に与える、「現物給与」とは
本来ならば、労働に対する対価は、給与として金銭で支払われます。従業員に支払われる給与は多くの場合、課税の対象となります。しかし金銭とは別に、食事や商品といった価値があるものを与えることを「現物給与」と言います。
まかないが現物給与とみなされるのには、いくつかの理由があります。食事は本来ならば、自分で負担するもの。それを無償で従業員に与えるということについて、価値のある物を付与したとも考えられることから現物給与としてみなされる恐れがあるのです。
まかないを従業員に提供する上で守るべきこと
まかないを提供することは、決して悪いことではありませんが、きちんと税務上でのルールを守る必要があります。では具体的にはどんなルールがあるのか見ていきましょう。
必ず守りたい、”まかない”における2つのポイント
従業員にまかないを提供するとき、注意しておきたいのは以下の2つのポイント。これらを守ることで、まかないは福利厚生代の一部となり、課税対象になりません。
(1) 役員や使用人が食事の価額の半分以上を負担していること。
(2) 次の金額が1か月当たり3,500円(税抜き)以下であること。(食事の価額ー役員や使用人が負担している金額)
出典:国税庁 ホームページ
では、この2つのポイントを具体的なシーンに置き換えて、考えてみましょう。
例えば居酒屋でバイトをしている大学生のA子さんがいます。A子さんは月に8回ほどまかないを食べるシフトになっています。
その居酒屋でのまかないの価格は、1回あたり500円まで。課税対象外にするためには、そのうちの半額の250円を従業員が負担する必要があります。A子さんの場合、お店側の負担額は最大で月額2,000円になります(250円×8日分)。
2,000円であれば、上限額の3,500円を下回るので、課税の対象にはなりません。逆に、もしも仮にこの500円のまかない代を全てお店側の負担にしてしまえば負担額は月額4,000円となり、所得税の課税の対象になってしまいます(500円×8日分)。
まかないで値段を気にしながら調理をするということは少ないかもしれませんが、実はこのような決まりが明確に定められていたのです。
自己負担額を給料から天引きをするケース
従業員がまかないを食べるたびにお金を払うのではなく、従業員から負担する額を給料から天引きするケースもお店によっては見られます。
また、一定のまかないを食べられる回数を超える場合にも、給料から天引きを適用することもあります。月額あたりのお店側の上限負担額を超える時は、従業員に天引きする旨を伝えることでまかないを提供することができます。
しかし、このようなルールを必ず事前に従業員に申告をし、明確化させておかなければいけません。何も申告をせずに天引きをするようなことがあれば、後々のトラブルを招く可能性も発生します。
まかないはコミュニケーションの場。ルールを守ったうえで、充実させよう。
まかないには「コミュニケーション」や「従業員の教育」という側面があると考える経営者の方もいらっしゃいます。過去にイタリアンレストランを経営していた方からは「若手の練習の機会やシェフの試作の場、時にはコミュニケーションの場でもありました。」、「一度に作る量が多ければひとりあたりのコストは下がるので、スタッフにコスト感や工夫のしどころを身につけさせるにはいい機会だと思います。」という意見も。
いきなり本番で料理をさせるのではなく、まかないを通して従業員の教育につなげたいというのは、飲食業界が盛り上がっていく上でもとても大事なこと。一方で課税という面から見てみると、落とし穴があることも事実です。ルールをしっかりと守った上での提供が肝になるでしょう。