2020年11月、厚生労働省は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で売上げが減少した事業者が「休業手当」を支給して従業員を休ませた場合、政府がその費用の一部を助成する「雇用調整助成金」の特例措置などの対象期間を2021年2月末まで延長すると発表しました。
当コラムでは、以前も雇用調整助成金についてお伝えしましたが、改めて経営者が知っておきたい休業手当に関する知識を紹介します。
1.会社都合で仕事ができなくなった場合に支払われる「休業手当」
2.休業手当の算出方法
3.事業主への補償制度「雇用調整助成金」の延長が決定
4.パートやアルバイトなど非正規雇用者への手当はあるのか?
5.業界全体や地域までを包括した問題として解決していく必要がある
会社都合で仕事ができなくなった場合に支払われる「休業手当」
「休業手当」とは、雇用主である会社側の何らかの都合によって事業が継続できなくなった場合に、従業員全員に支払われる賃金の一種です。休業手当は労働基準法(第26条)で定められており、雇用主は平均賃金の6割以上を支払う義務があります。
休業手当は、あくまで“会社都合”による会社全体の休業が対象で、病気や家庭の事情など個人都合で休んだ場合は対象外となります。また、台風や地震などにより公共交通機関が使えなくなったことで、臨時で会社全体が休業になった場合も対象外となります。
勤務中に生じた事故などでケガを負い、治療のため休まなくてはいけなくなった場合は「休業補償」が適用されることが同じく労働基準法で定められています。「休業手当」とよく似た言葉ですが、休業補償は労災に関する決まりごとで、会社の経営や業績に関係なくあくまで個人に適用される補償です。休業補償では平均賃金の8割が支払われます。
休業手当は課税対象となるため、社会保険や雇用保険、各種積立金などは差し引かれて支給されます。一方、休業補償については非課税となります。受給できる期間は休業手当が最長で1年。休業補償は同じく1年と6カ月となっています。
休業手当の算出方法
次に休業手当の算出方法を見てみましょう。労働基準法では、休業手当は“平均賃金の6割以上”となっていますが、ここで言う「平均賃金」は1か月の給与ベースではなく、休業日以前3か月間に支払われた総賃金を総日数で割った金額になります。ただし、賃金締め切り日を月の途中に設定している会社では、直前の賃金締め切り日から起算します。つまり、毎月20日が締め日の場合、同月21日から翌月20日までが1か月分としてカウントされます。
例えば、12月1日に休業を開始した会社(締め日は毎月末)で月25万円の給与(基本給)をもらっている人がいるとします。この場合、算出方法は以下のようになります。
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日数 | 基本給 | 通勤交通費 |
9月 |
30日 | 25万円 | 1万円 |
10月 |
31日 | 25万円 |
1万円 |
11月 | 30日 | 25万円 |
1万円 |
合計 | 91日 | 75万円 |
3万円 |
(75万円+3万円)÷91日=8571円がこの人の平均賃金になります。
このうち、6割が支払われるため、
8571円×0.6=5142円が1日あたりの休業手当となります。
上記の表では基本給と交通費のみしか計上していませんが、残業手当のほか、結婚祝い金、傷病見舞金など臨時の支払いがある場合は、その分もプラスされて算出されます。
事業主への補償制度「雇用調整助成金」の延長が決定
新型コロナウイルスの感染拡大によって、在宅によるテレワークの導入が一般的なものになってきました。しかし、在宅勤務が難しいまたは不可能な職種もあります。苦肉の策で休業に踏み切ったとしても、社員を多く抱える企業ほど休業手当の支給は会社の財政を大きく圧迫し、近い将来、再開を待たず倒産してしまうこともあり得る話です。
そしてこのたび、新型コロナウイルスの終息が困難な現状から、「雇用調整助成金」の特例措置を2021年2月末まで延長することが決定しました。雇用調整助成金とは、事業活動の縮小を余儀なくされた事業者に対して、従業員の雇用維持を図るために従業者に支払う休業手当の一部を助成するもので、コロナ禍以前からある制度です。
雇用調整助成金の上限額は1人1日1万5,000円です。助成率については会社の規模や人員整理の有無など諸条件によって異なりますが、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた事業者に対しては、大企業で2/3、中小企業(※1)で4/5。同時に従業員を解雇していないなどの条件を満たしている場合は、大企業で3/4、中小企業で10/10となっています。
助成額の算出方法は
●(平均賃金額×休業手当などの支払率)×上記の助成率
となっており、会社の規模が小さく、かつ従業員の雇用を守った企業に対する措置が手厚くなっています。支給限度日数は原則として1年間で100日分、3年で150日分ですが、緊急対応期間中に実施した休業などは、この支給限度日数とは別に支給を受けることができます。
※1:中小企業:以下に該当する企業を指します
・小売業(飲食店を含む): 資本金5,000 万円以下 または従業員 50 人以下
・サービス業: 資本金5,000 万円以下 または従業員 100 人以下
・卸売業: 資本金1億円以下 または従業員 100 人以下
・その他の業種: 資本金3億円以下 または従業員 300 人以下
パートやアルバイトなど非正規雇用者への手当はあるのか?
パートやアルバイトなどの非正規雇用で働く人も大勢います。パートで家計を支えている主婦(主夫)や、学費をアルバイトで稼いでいる大学生もいることから、非正規雇用者に対する補償も気になるところです。
雇用調整助成金は、一般的には雇用保険被保険者である正社員が支給対象となりますが、雇用保険に加入していないパートやアルバイトには「緊急雇用安定助成金」の名目で企業に支給されることとなっています。ただし、正社員が受け取る休業手当とは異なり、非正規雇用者は3か月間の総日数ではなく実際に出勤した日数で日割りし、その6割を受け取ることができます。
助成率については、2020年1月24日から2021年2月末までの判定基礎期間内に解雇などを行っていない場合は10/10(※2)、雇用が維持されている場合は4/5(※3)となっています。
※2:解雇とみなされる有期契約労働者の雇い止め、派遣労働者の事業主都合による中途契約解除などを含む
※3:期間中の各月末日時点の従業員人数の平均と比べて、4/5以上の人数が維持されていることが条件
業界全体や地域までを包括した問題として解決していく必要がある
今回ご紹介した雇用調整助成金も、新型コロナウイルスの感染拡大が一向に収束しないことから、特例措置の期間が数度延長されてきました。しかし、補償が手厚くなるだけではなんの解決にもつながりません。
「Withコロナ」の時代をどう生き抜いていくか、一経営者だけでなく、業界全体や地域まで包括した問題として解決していく必要がありそうです。