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「お店を持ちたい」。そう思い立っても、新規開業のためのノウハウを持たないために諦めてしまう人が多いかもしれません。でも、開業に向けて必要な知識を身につけ、コツコツと準備を進めることで新規開業することも夢ではありません。

きっと、新規開業を目指すみなさんが本当に必要としているものは、開業に必要な1から10までのステップに関する指南と、その過程で味わう苦労を交えた、リアルな体験談なのかもしれませんね。

そこでOMISE Lab編集部は、店舗運営の経験はないが、ゼロからお店作りを始めたデザイナーの大谷秀映さんに密着。連載シリーズを通じて、大谷さんがリノベーションで手作りするお店が徐々に仕上がっていく過程をレポートします。

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デザイナー・大谷秀映さん

 


開業に向けてのプロセス

一口に「自分のお店を持つ」と言っても、そう思い至ったきっかけは人ぞれですよね。せっかく持った夢だからこそ、開業に必要な知識を身につけ、綿密な計画を立てることで、実現までの道のりに立ちはだかる難問を一つひとつクリアしていきたいものです。

この連載で自身の体験を教えてくださるのは、長きにわたりデザインの仕事を生業にしている、大谷秀映さん。現在、自身がオーナーを務める工房&カフェ「ZAGURI」のオープンに向けて、自分の手で一から店作りを進めている真っ最中です。

そもそも、なぜデザイナーである大谷さんが、自分の店を持とうと思ったのでしょうか。

(大谷)「5年ほど前からフリーランスで仕事をしているのですが、紙やウェブサイトのデザイン以外に、個人経営者のお店の内装デザインにまで携わるようになったんです。その仕事を進めていくと、売上を上げるための施策にまでお手伝いをさせてもらえるようになったことから、店を持つことに興味を持ちはじめました」

つまり、「お客さんの店舗集客のために本当に効果的なツールは、果たしてチラシなのか、ウェブなのか」と考えるうちに、媒体のデザインだけの仕事では収まらなくなったことが大谷さんにとってのお店作りのはじまり。決められた予算の中で、必要なものを選別し、予算配分から売上目標までお客様とシェアすることで、いつしか自分でも店を持ちたいと思いはじめたそうです。

(大谷)「お客様にリピーターになってもらうためには、印刷物にお金をかけるべきなのか、店舗内の装飾にお金をかけたほうが良いのか?など、お客様と一緒に店作りをする中で開業へ向けてのノウハウを学んでいきました。また、古い文字フォントを作ったり、変わった名刺を作ったりするなど、はば広くモノ作りの仕事をしているので、それら自分たちで作ったものを売るスペースが欲しいと思ったことも理由のひとつです」

大谷さんが出会った阿佐ヶ谷の空き物件。この空間がどのように生まれ変わっていくのでしょうか。

大谷さんが出会った阿佐ヶ谷の空き物件。この空間がどのように生まれ変わっていくのでしょうか。

 

お店のコンセプトを作る

大谷さんがお店作りの参考にしたのは、大量の雑誌やHowTo本

大谷さんがお店作りの参考にしたのは、大量の雑誌やHowTo本

いざ、自分のお店を構えようと思った時のファーストステップは「コンセプト作り」。誰に、どこで、どんなサービスを届けるのか。それを可能な限り具体化して考えるのが、開業準備の最初の関門です。

ここでいうコンセプトとは、お店の「基本的な考え方や姿勢・特徴」のこと。このコンセプトによって、店の雰囲気もメニューも、そして内装もターゲットも全てが変わってきます。オープンまでに、最初に決めるこのコンセプトこそがその店のすべてを決めるといっても過言ではありません。

もし、コンセプトが固まっていないと、どのようなお客様をターゲットにするのか、どのような料理を提供するのかといった基本的なことが決められず、さらに出店エリアや店舗の外装・内装などを決めることができません。まずは、誰に話してもイメージしてもらえるようなコンセプトを作り上げることが大切です。

(大谷)「うちのお店は“制作工房兼カフェ”がコンセプト。これに物販とワークショップがプラスされた空間をイメージしています。工房だけだと面白みがないので、コーヒーが飲めるお店も兼ねることにしました。一つの空間で、自分たちが作ったもののノウハウを提供できたらと考えています」

最初、大谷さんはコーヒーの焙煎も自分でと考えていたそうですが、焙煎機は一台500万円ほどと高価。そんな時に、世界中を飛び回って美味しいコーヒー豆を仕入れている人がいることを知り、さっそく情報収集。物件を探している途中に条件の合う人と出会い、その人から豆を卸すことになったそうです。

コンセプトがなかなか決まらない時は、いくつもの種類の同業種の店を訪れ、「どんなコンセプトの店か」、「繁盛している要因は何か」などを考えながら観察してみるといいでしょう。簡単なキーワードだけでも構いません。それらをつなぎ合わせていくと、だんだんとイメージが固まってくるはずです。

大谷さんは物件探しの際、街を歩きながらその先々で「いいな」と思ったお店を次々に写真に収めて記録し、店作りの参考にしたと言います。

大谷さんは物件探しの際、街を歩きながらその先々で「いいな」と思ったお店を次々に写真に収めて記録し、店作りの参考にしたと言います。

自分の得意分野や専門性を生かす

せっかく自分のお店を持つのですから、自分の得意分野や専門性・好きな事にフォーカスすればするほど、独創的なコンセプトを作ることができます。

例えば、音楽が好きであれば、店内に音楽を流しながらそれを楽しめるようCDやレコードのジャケットをインテリアとして飾ったり、動物が好きなのであればペット同伴可にしたり、また、写真や絵画など自分の作品を展示するというのも一つのアイデアです。

ただ頭の中でコンセプトを考えるのではなく、ノートに自分のイメージと近いものが写った写真を貼ったり、常に思いついたことをメモしたりしていくうちに、お店の完成形となるイメージも徐々に明確になってくるはずです。独創的なアイデアが元になったコンセプトで成功している店は、そのような試行錯誤を経て作られているのです。

大谷さんの場合、“モノ作り”という言葉がキーワードになり、そこから店名が決まったそうです。

(大谷)「「ZAGURI」という店名を漢字で書くと、“座る”に“繰り出す#と書いて“座繰り”。もともとは絹糸を巻き取るための木でできた道具のことを指しているそうですが、昔は、組紐や絹糸を使って仕事をする様子をザグリとも言ったそうです。店のコンセプトに、モノ作りが根底にあることと、名前の響きが良いことも決め手になりました」

店名はお店の“魂”と言っても過言ではありません。

四方八方に張り巡らせたアンテナからキャッチした情報と、自分のこだわりをミックスし、それに“魂”を込めること……お店のコンセプト作りとは、つまりはそういう作業のことを指すのかもしれませんね。

 

【予告】

連載シリーズ、「経験ゼロからの開業日記」。第2回は、誰もが気になる物件探しのポイントについてお届けします。

 

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magazine 編集部

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店舗BGMアプリ「モンスター・チャンネル」が運営する店舗運営情報magazineの編集責任者。