ハサップ(HACCP)とは? 飲食店への影響と衛生対策を紹介

2020年6月から改正食品衛生法が施行され、飲食店ではハサップ(HACCP)が義務化されることになりました。しかし、どのような対策が必要なのか分からないと悩む方もいるでしょう。

そこで、ハサップが義務化されたことで飲食店にどのような影響があるのか、どのような対策が求められるのかを紹介します。

2020年6月にハサップ(HACCP)が義務化

ハサップ(HACCP)とは「Hazard Analysis and Critical Control Point」の略です。食品等事業者自らで食中毒菌汚染や異物混入といった危害要因(ハザード)を把握し、原材料の入荷から製品の出荷までの全工程の中で、製品の安全性確保のために実施される危害要因の除去や低減などの衛生管理を行うことを言います。

主に食品製造業事業者に整備が進められていましたが、外食や調理食品のニーズ向上、訪日外国人や輸出食品の増加などから、広域的な食中毒の防止が課題となりました。

そこで、飲食店や販売店といった小規模事業者にも、国際基準のハサップの考え方を導入した高い衛生管理を制度化すべきとして2018年6月に改正食品衛生法案が可決され、2020年6月までに全ての飲食店でのハサップが義務化されました

ハサップ(HACCP)義務化による飲食店への影響

厚生労働省が提示しているHACCPに関するリーフレットによると、平成30年に起きた食中毒の50%以上は飲食店で発生しています。ハサップに基づく衛生管理を飲食店で導入することで、食品汚染が減り、食中毒の防止が期待されます。また、従業員の衛生面に対する意識の向上も期待できるのです。

ハサップの導入には、計画書の作成や承認が必要となりますが、承認までには50~100万円ほどかかります。さらには、承認の更新費用が毎年10万円発生すること、実施した衛生管理を記録する手間などを考えると、店舗にとっては大きな負担となるでしょう。

しかし、ひとたび衛生管理マニュアルを整備すれば、効率的な衛生管理が可能です。長いスパンで見れば、食中毒のリスク低減でき、店舗の信頼性向上にもつながるでしょう。

ハサップ(HACCP)への飲食店対応

飲食店のハサップに基づく衛生管理には「衛生管理計画の策定」「計画に基づく実施」「確認・記録」が求められます。

衛生管理計画の策定

衛生管理計画は、現在取り組んでいる衛生管理と、メニューごとに適した衛生管理の注意点を明確にすることから始まります。飲食店の衛生管理計画は、全ての食品に対して行うべき対応を示した「一般的衛生管理」と、食品の調理方法に応じて行うべき対応を示した「重要管理」から構成されます。

【一般的衛生管理】
①原材料の受け入れ
②冷蔵・冷凍庫の温度の確認
③-1交差汚染・二次汚染の防止③-2器具等の洗浄・消毒・殺菌③-3トイレの洗浄・消毒
④-1従業員の衛生管理・衛生的作業着の着用など④-2衛生的な手洗いの実施

衛生管理に有効な対応が実施されていることをいつ・どのように確認するのか、トラブルが発生した際にはどのように対処するのかといったポイントを事前にまとめておきましょう。その際、管理が必要な理由も明確にしておくことで、適切な対応とチェックポイントの策定に役立ちます。

重要管理では、冷蔵庫から出して冷たいまま提供できる食材もあれば、加熱して温かいまま提供すべき食材もあるように、食材によって安全に提供できる調理方法や温度を維持するための注意点は異なります。以下のような3つの分類に分けることができます。

【重要管理の対象食品をグループ化】
第1グループ:非加熱のもの(冷蔵品を冷たいまま提供)
第2グループ:加熱するもの(冷蔵品を加熱して温かいまま提供)(加熱した後、高温保管)
第3グループ:加熱後冷却、または、加熱後冷却してから再加熱して提供するもの

上記に沿って食材を分類し、適切に調理・提供されているかチェックできる方法をまとめる必要があります。

計画に基づく実施

計画を作成できたら、適切な衛生管理のための対策を実施できるでしょう。しかし、従業員がマニュアルを理解していない、マニュアルを守っていないといったことがあれば、食中毒のリスクを抑える効果を期待できません。

衛生管理計画を意味あるものにするために、全ての従業員がマニュアルを理解できるための研修を実施することをおすすめします。マニュアルを守れない理由として、店が忙しく、都度計画を確認しながの対応が困難な場合があります。

研修などでマニュアルや衛生管理の目的を共有することは、どのような時でも同一の衛生管理ができるようになるメリットもあります。

衛生管理計画の項目ごとに、対応例を紹介します。

〈一般的衛生管理の対応例〉

①原材料の受け入れに関する対応

腐敗している、保存方法が適切でないといった食材には食中毒の原因となる微生物がついている危険性があります。

適切な食材を使用して料理を提供できるよう、納入の時に見た目やにおい、包装の状態や消費期限などを確認し、問題があれば返品・交換するといった対策が求められます。冷蔵や冷凍保存が必要な食材に関しては、できる限り早く適温で保管することも必要です。

②冷蔵・冷凍庫の温度の確認に関する対応

冷蔵・冷凍庫の温度が適切でないと、保管する食材の劣化や微生物の増殖が早まるリスクがあります。

適温で食材を保管するためには、始業前に温度計で庫内の温度を確認し、冷蔵・冷凍に適した温度(冷蔵:10℃以下、冷凍:-15℃以下)を徹底しましょう。

③-1交差汚染・二次汚染の防止に関する対応

食材の保管や調理の方法によっては、生肉や生魚介類などから他の食材に微生物が広がる可能性があるため、食中毒のリスクを考慮した保管・調理方法が求められます。

生肉や生魚介類などは蓋付きの容器に入れて、冷蔵庫の一番下に他の食材と区別して保管すると良いでしょう。生肉などから汚染が発見された場合、提供メニューに使用しないか、使用する場合は必ず加熱調理しましょう。

③-2器具等の洗浄・消毒・殺菌

まな板や包丁などの調理器具からも食材に微生物が広がる危険性があります。肉・魚用や野菜用と食材ごとに使い分け、使用後は十分な洗浄と消毒を行い、使用前に汚れが残っていたら必ず洗浄と消毒を行いましょう。

③-3トイレの洗浄・消毒

トイレは店内でも微生物の増殖のリスクが特に高い空間です。トイレを利用した人の手を介して食材に微生物が広がる可能性があるため、食材を扱う前にトイレ掃除をして微生物を広げないことが大切です。

便座、水洗レバー、手すり、ドアノブなど人の手に触れる部分は重点的に消毒しましょう。また食材汚染をより徹底するために、清掃時には清掃用の作業着に着替えることをおすすめします。

開店前にトイレを清掃しても、使用する方がいれば清掃時の状態を維持することは難しいため、定期的にトイレの洗浄・消毒を行いましょう。

従業員が少ない場合やお客様が立て続けに来店する場合などこまめな清掃が困難でも、汚れを発見した時には都度清掃するようことが大切です。

④-1従業員の衛生管理・衛生的作業着の着用などに関する対応

調理担当者に下痢など消化器系の不調があると、手指を介して食中毒のリスクが高くなります。また、手に傷がある、装飾品を身につけている、作業着が汚れているといった状態での調理は、食品に微生物が広がる、異物が混入するといったリスクがあります。

始業前に従業員の体調と手の傷の有無と装飾品をつけたままにしていないかチェックすることで、安全に料理を提供できます。調理担当者に下痢などがある場合は調理作業をさせない、手に傷がある場合は耐水性絆創膏をつけた上から手袋を着用する、作業着が汚れたら清潔な物と交換するといったことが大切です。

④-2衛生的な手洗いの実施

作業時の手袋の有無や体調不良の有無に関係なく、徹底した手洗いは手から食品に微生物を拡大させないために欠かせません。調理や盛り付けをする前、生肉や生魚を触った後、作業内容が変わる時、清掃をした後やトイレの後、金銭を触った後は入念な手洗いが必要です。

〈重要管理の対応例〉

第1グループの対応

冷蔵品を冷たいまま提供できるメニューには、サラダや刺身などが該当します。適温で保たれた冷蔵庫で保管されているか、冷蔵庫から出したらぬるくならないようすぐに提供されているかなどをチェックします。

非加熱のものは加熱できる食材のように、加熱しても食材に付着した微生物を殺菌できないので、微生物が増殖しないよう盛り付けや加工する直前まで冷蔵保存しましょう。

第2グループの対応

第2グループの中で、冷蔵品を加熱して提供するものは、ハンバーグや焼き鳥、焼き魚などが該当します。加熱した時の火の強さや時間、見た目やにおい、中心温度や肉汁などで十分に加熱されているかチェックできます。

適切な火の強さや見た目などを調理の度に記録するのは大変なので、1日の終わりや新メニュー開発時には記録に残すようにしましょう。

加熱後高温保管するものは、フライドチキンなどが該当します。高温保管が必要な食材の注意点は、加熱して提供するものと基本的に変わりませんが、適切な温度で保たれた保管庫での保管が求められるので、保管庫の温度確認も必要です。

適温で調理しても、盛り付け時の手指や調理器具、盛り付ける皿などから食品が汚染される可能性があるので、汚染させないように清潔にすることも心がけましょう。

第3グループの対応

第3グループはカレーやスープ、ソースなどが該当します。加熱されていることは第2グループと同様の方法でチェックします。加熱後には浅い容器に移して氷水で冷ますなど、急速に冷却されているかのチェックも必要です。液体のものは沸騰して気泡や湯気を確認できれば加熱されていると判断できます。

確認・記録

衛生管理計画が適切に実行されていることを定期的に確認し、実施されていない対策や新たな衛生上の問題を明確にしましょう。

さらに、確認した内容を記録し、どこまで計画を実行できているか、計画の改善点はないかなど、より効率的な衛生管理を目指すことが重要です。

飲食店で万が一食中毒などの問題が発生したときには、衛生管理を実施していたことの証明にもなります。計画のチェックポイント以外にも、衛生面で気になることやクレームへの対処法を記録できるスペースもあると、衛生管理計画の改善に役立ちます。

保健所の食品衛生監視員から提示を求められることもあるので、1年間は衛生管理計画の記録を保管しましょう。

◎ここを避けては通れない!保健所OKを出すための11のチェックリスト

まとめ

飲食店でも義務化されることとなったハサップ(HACCAP)は、食中毒の防止や衛生面の向上につながります。適切な食材の保管・調理のための計画を立て対策を講じ、計画を実行できているか振り替える。衛生管理の正しい手順に慣れるまで、手間に感じることもありますが、しっかりと従業員に浸透させ、店舗の安全性・信頼性の向上を目指しましょう。