これから店舗開業をしようと思っている人、自分のお店を持ちたいと思っている人の前に立ちはだかるのが「資金調達」や「税金、経理について」の壁。今まで専門的な勉強をしていたり、開業・起業をしたことがある人でなければ、詳しい知識がある人はほとんどいないのではないでしょうか?
そんな不安を抱える人のために、税理士法人 田尻会計の税理士・田尻重暁先生にお話を伺いました。資金調達、経営指標、税金・経理など、店舗開業に必要なさまざまな知識を、全3回にわたって紹介します。
はじめて開業する人は、「日本政策金融公庫」へ
── まず最初に、資金調達の基本的なフローについて教えていただけますか?
最初に借り入れをするにあたって、いくつかのチェックポイントがあります。動機が明確であるか、事業継続していける自信があるか、家族や周囲の人の協力は得られているかなどさまざまですが、「どのような店舗を創業するのか」という計画が、ある程度決まっているかどうかが大事です。
また、店舗の場所も事前に特定しておき、内装工事などの見積もりを用意しておく必要があります。
── 店舗の場所も、先に確保しておくべきなのでしょうか?
金融機関に相談に行くとき、「いくら借りられますか?」と聞くよりも、「これだけの資金が必要なのでお願いします」というほうが、話を進めやすくなります。
なので、店舗の場所を決めて、内装工事の見積もりなど必要な資金をきちんと把握し、どれくらいのお金が必要なのかというのを自分の中で決めておいたほうが良いですね。
── 金融機関に借り入れをお願いするとき、自己資金はどのくらい必要なのでしょうか?
日本政策金融公庫を例にあげるとすると、飲食店向けの新規開業ローンに「生活衛生新規業育成資金」というものがあるほか、「新創業融資制度」があります。
通常、資金の借り入れをするときは担保やその他のオプションが必要になると思うのですが、こちらは無担保・無保証でも借りることができる制度です。
この新創業融資制度は、自己資金が10分の1以上あること、6〜7年の勤務経験があることなどが条件となってきます。なので、制度上は自己資金が10分の1以上あれば申請することができますが、実際のところ、だいたい3分の1程度は用意しておいたほうがいいと聞くことが多いですね。
新創業融資制度は無担保・無保証で借り入れをすることができますが、その分借りることができる金額も少なくなってきます。
また、貸付金残高が300万円以内の女性には、一部の要件を免除する「女性小口創業特例」というものもあります。
メガバンクは金額も信用も大きい分、店舗開業者には敷居が高い
── これは日本政策金融公庫の例ということですが、他の金融機関でも同じような条件なのでしょうか?
日本政策金融公庫は、政府が創業者を支援するための金融機関なので、他の金融機関に比べるとかなり敷居が低くなっています。
はじめて開業する人は、ここが入り口としてはいちばん良いのではないでしょうか。
大手都市銀行は、いわゆるメガバンクとよばれる銀行ですので、実績のない創業者が取引をするにはなかなかハードルが高くなってしまいます。
都市銀行は商圏が大きいので、2店舗目を違う地域で出しても大丈夫ということ、大きい金額を借りることができること、対外的な信用度が大きいというメリットが挙げられます。
それに対し、日本政策金融公庫は創業者を育成したりフォローしたりする、あるいは中小企業・個人事業を支援するという理念でできています。
そのため、スタートアップの時点ではここで資金調達をして、何年か実績を積んだ上で店舗拡大をしたいというときに、メガバンクや地銀の門を叩けば良いのではないかと思います。
── 実際に、どのような手順で審査が行われるのでしょうか?
だいたい、まずは審査の前に融資担当の窓口に相談に行きます。そこで借り入れの申し込みをしたいと話すと、窓口の方がそろえる書類について指示をしてくれるので、それをもってさまざまな書類をそろえます。
── 申請書類には、どのような種類のものがあるのでしょうか?
日本政策金融公庫の場合は、創業計画書と事業計画書を提出します。事業計画書には、創業の動機、創業者の経歴、どういう商売をするか、主な小売先・仕入れ先、従業員、他に借り入れがある場合はその銀行などを記入します。
── 申請書類でミスしやすいポイントや、気をつけておきたい点はありますか?
事業計画書に、開業するために必要な資金を記入するのですが、それに関する数字をたくさん計算しなくてはいけないんです。ここで集計ミスをしてしまうと数字が一致しないので、やり直しになってしまいます。
ミスをしてしまったらもうダメというわけではないですが、時間がかかってしまうので、なるべくしないように確認したほうがよいですね。
それから、当年度の業績予測をするのですが、その経費に自分のプライベートなお金や自宅の家賃・生活費を入れてしまう人も多いようです。
ここに記入するのはあくまでも事業に関わるものだけなので、その点は気をつけておきたいですね。
現実的な事業計画と準備が、信頼を生みやすくする!
── 審査に通りやすくするために、準備しておくべきことはありますか?
審査では創業者の経歴、自己資金、事業に十分な返済能力があるかどうかを総合的に見ます。
事業計画は創業者の経験・経歴に基づいて、ある程度現実的であることが望ましいです。毎日満席が続くような計画は、現実的ではありませんよね。
また、申請時の面談で「テレビや雑誌に取り上げられる」「連日予約殺到の人気店になる」と言った夢を語ってしまう人も多いようです。気持ちはわかるのですが、ここだけは冷静になって、地に足のついた説明をしたほうが信頼されやすいですよ。
それから、自己資金は定期預金などに貯蓄していると良いですね。
── 定期預金に貯蓄をしておくと、審査が降りやすいのでしょうか?
思いつきでお店を始めようと思ったのではなく、例えば「3年後にお店を持とう」「5年後に開業しよう」など計画して、それをもとにお金を貯めていたという印象が伝わると、信頼をもたれやすいんです。
その記録を残すわかりやすい方法が、通帳に記帳しておくことなんですよね。
日々の公共料金の支払いが滞っていないかなども、審査で見られるポイントになります。支払いが遅れてしまったらただちにNG、というわけではないですが、普段からお金の使い方をきちんとしておくことはとても大切ですよ。
若い人でも、開業のチャンスはある?
── 20代前半など、若い人でも自分のお店を持ちたいと思っている人は多いと思います。そういった社会経験が浅い、収入が多くないという人でも、申請することはできるのでしょうか?
最低限の自己資金がきちんとあれば申請はできるのですが、開業する業種の経験がまったくないというと、事業計画に説得力がなくなってしまうんですよね。
だから、具体的に何年とは言えませんが、「◯◯の経験があるので、このお店だったら◯◯程度の売上げは出せる」と説明できるほどの経歴は必要かなと思います。
── 開業資金をすべて自分で負担することと、金融機関からお金を借りて開業することのメリット・デメリットはあるのでしょうか?
事業に必要なお金をまかなうことができれば、それに越したことはありません。借り入れをすると、利益の中から返済と利息の分を余分に残しておかなければいけませんが、その必要もなくなりますよね。
ただ、多くの場合は自己資金だけでは足りないということが多いです。特に、最初は設備投資などのお金もかかります。
あとは、借り入れをしてある程度まとまった額を用意できると、事業のスピードが上がるということは言えます。大きいお金を借りたかわりに、大きなリターンを見込める可能性も高くなる。
そのかわり、身の丈にあった資金調達をしなければ返済が苦しくなり、息切れをしてしまう場合もあります。なので、うまく活用することが大切です。
※第2回は、店舗経営に欠かせない「経営指標」について、田尻先生に解説していただきます。
■協力:税理士法人 田尻会計(TEL:03-3618-4403)