調理スタッフ以外、AIに全てを託し、ほぼ無人の状態で店舗運営をしている『beeat sushi burrito Tokyo(以下・beeat)』。提供している商品の価格もAIによって決められている、最先端技術を用いた店舗です。この記事では、この店舗の代表である株式会社ユーボの佐藤丈彦氏に、飲食店がIT技術を取り入れるメリットや、フードテック業界の今後の展開についてお聞きしました。
ほぼ無人で店舗運営を実現。beeatの秘密とは?
――まずbeeatについて教えて下さい。
佐藤丈彦氏(以下・佐藤氏):beeatは日本の巻き寿司と、メキシコのブリトーを組み合わせた料理を提供しています。店舗内はオンラインでのオーダーかつキャッシュレスのため、レジ係や注文を受けるスタッフはいません。メニューはミシュランシェフである水口一義氏が監修しています。
注文方法は次の通り。まず、QRコードなどから会員登録をします。名前と電話番号だけで簡単にユーザー登録が可能です。登録したら、スマホ画面から買いたい商品をピックアップ。ここでトッピングなどもできます。支払いはクレジットカードまたはAmazon Payが利用可能です。
出来上がり時間が通知されたら、beeatに取りにいきます。店内ディスプレイで注文の状況が確認できるので、BOXから商品を受け取ればOKです。
――この店舗のコンセプトはどのようなものですか?
佐藤氏:まさに「新しい食体験」です。近未来の食体験というものがコアにあります。寿司ブリトー自体、日本では物珍しいものなので、消費者にとっては目新しさを感じてもらえるのではないでしょうか? 私たちは「ハーモニーオブカルチャー」と呼んでいますが、日本の巻き寿司とメキシコのブリトーが組み合わさった、非常にダイバーシティを感じるものになっていると思います。
この店舗の特徴は、商品がすべて「時価」であるということです。野菜など、その日のメニューの値段や仕入れ時間帯によって、AIが価格を決めます。
もう一つは「キャッシュレス」「モバイルオーダー」「サービングボックス(受け取る場所)」など、新しいテクノロジーを使って店舗でどう効率化できるのかを実験しているところです。これらの先進的な取り組みも、このお店の訴求ポイントといえます。
これらの施策を踏まえ、お客様のユーザーエクスペリエンス(ユーザーが得る経験)を第一に、試行錯誤しながらチャレンジしているというところです。
――AIやその他のテクノロジーを駆使している飲食店ということがわかりました。では、beeatを運営するようになったきっかけを教えて下さい。
佐藤氏:もともと私どもは飲食チェーン向けに設備の販売をしていました。その中で、飲食業界はなかなか人が集まらない……という話を聞いていたので、現状の労働力をサポートしたり省人化対応したりできるようなシステムを作ってそれを提案しようと考えました。
その上で、弊社で実証実験となるようなデータ、すなわち、これだけ効率化されますよというデータやオペレーション方法に関するマニュアルを確立したいと考え、実験店舗として始めた次第です。
AIが飲食店の店舗経営を変える
――「商品の価格をAIが決める」というシステムを導入するきっかけは?
佐藤氏:ヒントとなったのは、スーパーで売られている野菜でした。なぜ毎日価格が変わるのに、飲食店の価格は据え置きなのだろうと思ったんです。もちろんお寿司屋さんなどの高級店には「時価」という価格設定がありますが、街中にある一般的な定食屋さんで「時価です」というのは違和感がありますよね。そういう意味で価格設定というのは難しいんです。それを、AIがシステマチックにやってくれるのは楽になると思います。消費者に対しても、「AIが値付けした」と説明しやすいメリットがあります。
とはいえ、beeatのデータ蓄積はまだ浅いので、商品価格に関してはまだ下限と上限(780円〜1,300円)を決めている段階です。ここは、我々としても実験段階といえます。
――beeatの特徴的なものとして、実際に注文から決済までオンラインでできる点が挙げられますが、このメリットとデメリットを教えて下さい。
佐藤氏:メリットとしては、一般的に言われているように、現金の管理をしなくて良かったり、盗まれることがなかったりするところです。反対にデメリットは、スマホなどのモバイル端末やクレジットカードを持っていないお客様を逃してしまうという機会損失でしょうか。
とはいえ、うちの客層の6割はオープン時間前にすでに予約をするような層なので、上のような機会損失は問題とはならないでしょう。
――AIなどを駆使することで、例えば商品開発に時間を割けるなど効率化は進むものなのでしょうか?
佐藤氏:商品開発自体に時間を割けるようになるのは、次のようなシステムでしょう。例えば、AIがビッグデータを駆使して商品動向などを全部把握し、様々な市場のデータを組み込んで「こんな調味料にしたほうがいいよ」といったアドバイスを言ってくれるようなものです。しかし、うちのシステムはそこまで到達していないので、商品開発に時間を割けるようになったというわけではないですね。「メニューを変えてみよう」とか「こんな商品を出してみよう」といった会議に関しては、AIを使わず自分たちでデータを見ながら判断しています。
人手不足の飲食業界において、AIは業界の救世主となるか?
――IT技術にまつわる日本のトレンドについて教えて下さい。
佐藤氏:いずれの飲食店も、テイクアウトや商品のピックアップ、デリバリーに最適化されてきているように感じます。POSに関しても今はハンディでできるレジスターなどが導入されてきているので、今後もIT技術を飲食店が取り入れていくトレンドはあると思います。
ただ、日本では現金に対する信頼度が高いので、キャッシュレスにする必要がそもそもあるのかという意見もあります。また、日本にはIoT技術を組み込んだ未来のレストランのような前例はありません。日本の飲食店さんはなかなか大きな投資ができないので、日本ではなかなか進まないのかもしれません。
対してアメリカや中国では、特にアリババとかジンドンとか、そういった巨大IT企業が潤沢な資本を投下して実験店舗を運営できるので、どんどんAIやIoTを使った店舗が登場しています。
日本だと大規模投資ができないので、実験的な使い方はできないのだろうと思います。ですから、うちのような会社が実験的に店舗を運営する意義はあると思います。
――今後AIやIoTが増えていくというトレンドがある中で、日本全体としてそれらが発展していくためにはどのような条件が必要になるのでしょうか?
佐藤氏:やはり、我々のような飲食店外のプレーヤーが多数参入してくることでしょうね。AIもIoTもそうですが、飲食店ではない、外部のプレーヤーが参入してくると思うので、そういったプレーヤーと飲食店がどのように付き合うか。一気に広まらないとは思いますが、人材不足であるという飲食業界の問題は明らかになっているので、そういった問題を補完していく流れになっていくと思われます。
――人手不足の飲食業界において、AIは業界の救世主となっていくのでしょうか?
佐藤氏:そうだと思います。AIだけではなくロボティックスを用いれば、業務の様々な部分がますます効率化されていきます。そうなれば、かなりシンプルなオペレーションとなるでしょう。今飲食業界は、辛い割には収益構造が悪い、という話をよく聞きます。オペレーションがシンプルになって収益構造が高くなれば、報酬も増えますし、それに伴って入社希望者も増えるようになると思います。結果的に、優秀な人材が集まるようになるのです。
たぶん牛丼チェーンのようなところが一番考えているのではないかと思うんですが、チェーン店の場合は店舗だけではなく、工場の効率化などを考えているのではないかと思います。お客様との対面以外についてはAIなどによって効率化が進んでいくと思いますので、むしろお客様との対面のほうを手厚くしていくほうに進んでいくのではないかと思います。
――AIやIoTを使うために心がけることは?
佐藤氏:AIやIoTは、あくまでもツールだと思っています。「どの部分にAIやIoTを使うのか?」という発想こそが重要なのです。ここでいう発想というのは、「もっとこうやったら改善できるのではないか」という考え方のこと。業務を改善するために、どのようにそれらのツールを活用すれば良いのか考える必要があると思います。
AIやIoTが広がっていく
佐藤氏が話すように、AIやIoTが進歩しても、結局のところそれらは「ツール」なのです。大事なのは、佐藤氏が話すように「ツールをいかに活用していくか」というところにあると言えます。
今後、このようなフードテックは広がっていくことでしょう。beeatのようなシステムが、飲食業界の人手不足という社会問題をいかに解決していくのか、今後注目です。
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