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東京・六本木にあるフレンチレストラン『Provision』は、月額制のサブスクリプションを導入しています。月に一度の支払いで食べ飲み放題というビジネスモデルを、フレンチレストランが実現できた要因はどこにあるのでしょうか?

今回は、Provisionの店主である品治典明氏に、サブスクリプション導入の経緯や、サブスクリプションの未来、そして今後の展望などについてお聞きしました。

 


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Provisionがサブスクリプションを導入した背景とは?

――サブスクリプション導入のきっかけを教えてください。

品治典明氏(以下・品治氏):もともとこのお店はワインバーとして営業していました。しかし飲食店激戦区である六本木で、長く儲かるお店として続けるには何かしらの武器や特徴がなければいけないと思ったんです。多くの店舗で行う施策としては、看板商品を作ったり、その店舗にしかない商品価値の提供を考えたりする、などがあげられます。しかし、僕らはそこで発想を転換しました。「お店に来る理由ではなく、来ない理由をなくす」ことを考えたのです。

例えば、行かない理由には、お店のトイレが汚い、料金が高い、美味しくない、雰囲気が悪い、駅から遠い、など複数の要因が考えられます。そこで、僕らが目を付けたのが「会計」です。接待やデート、友人同士での食事の際に、予定していた金額よりも高かった、という体験は誰にでもあると思います。食事中は気にしなくても、会計の場になった瞬間「あの店高かったな」と感じてしまった時点で、店舗の印象は「高いお店」で終わってしまいます。このネガティブな感情が残ってしまえば、リピート率は下がってしまうのです。「あの店、美味しいからいいよね」はリピートしますけど、「あの店、美味しいけど高いよね」はリピートしませんから。店舗が提供する料理などの価値と、相関する値段への満足感は個人の価値観が影響するので、難しいポイントです。そこで、そもそも会計という過程をなくしてストレスを極力減らし、料理への満足感だけで帰っていただくことを考えました。

――会計をなくすという決断から、サブスクリプションに至ったわけですね?

品治氏:そうです。サブスクリプションは事前に会員費をいただいているので、食事後の「会計によるストレス」がなくなり、リピート率も高くなると考えました。集客のために、その場その場の売り上げを立てることは十分大切です。しかし、事業としてお店を運営している以上、一時的な集客よりも、長くお客様に愛され継続してもらうことが重要だと考えています。「継続」という意味では、サブスクリプションは非常にいいやり方だと思ったので、これを導入しました。

――サブスクリプションを導入するにあたり、会員数が売上に直結するかと思われますが、集客はどのように行ったのですか?

品治氏:お金を払っての集客はしていません。ほぼ口コミです。その口コミを支えたのは、実は保険の営業マンでした。保険の営業マンの方々は個人事業主なので、接待交際費は社費でなく自腹なんです。なので、月に一度会員費さえ払えば食べ飲み放題ができるサブスクリプションは最適なサービスと言えます。また、プレスリリースも打ちました。フードライターの方に取り上げていただき、某ニュースメディアやインターネットTVで紹介されることで、いいサイクルができたのです。今後も広告を打つつもりはありませんが、店舗を拡大する際には、クラウドファンティングを活用するなど、他の店舗がやっていないことに取り組みたいですね。

――サブスクリプションの導入にあたり、懸念点などはありましたか?

品治氏:損益分岐点がいつになるかです。毎月100万円を損益分岐点とした場合、サブスクリプション導入前は毎月1日を0円としてスタートして、100万円を超える部分が利益になりました。しかし、サブスクリプションは月額会費なので、会員費×会員数が損益分岐点を超えなかった場合、毎日満席でも赤字になるんです。普通の飲食店は、例えば売り上げが0円の場合、固定費は掛かるにせよ食材原価は0円のはず。しかし当店は毎日赤字でも満席分の食費と飲料費がかかります。売り上げが見えないトンネルをいつ越えることができるのかという恐怖。売り上げに対しての原価がはっきりしない怖さ。他業種のサブスクリプションを見ても、黒字化までの期間がわからない恐ろしさは同じだと思います。

サブスクリプション導入時の注意点

――個人店舗でのサブスクリプションは可能ですか?

品治氏:率直にいうと、個人店舗のオーナーさんはやらないほうがいいです(笑) 当店は会社として運営していますが、会員数が一定以上になるまでは永遠に満席でも赤字なので、個人での資産・貯金では難しいかと思います。
もしやるのであれば、月会費をいただくようなモデルがいいと思います。月々会員費をもらい、当日お食事代も払っていただく。ただし、最高のサービスを提供するなどの特典を用いた二段階にわけた徴収であれば成り立つとは思います。

――サブスクリプション導入時の注意点を教えてください

品治氏:導入する際の注意点としては、ケチらないこと。サブスクリプションを導入し、黒字が見えない時期に、つい考えてしまうのが赤字幅を減らすことです。しかしそれはお客様の満足度を下げることにつながってしまうので、絶対にやってはいけません。中途半端に赤字を減らすことは対処法にならないのです。大事なのはサービスマインドを変えて提供し続けること。お客様に「こんなに提供してくれるの!?」と思わせることです。

先ほど提案した二段階徴収も同じです。会費をもらうのであれば、パスタが見えなくなるまでトリュフをかける。「こんなにされたら悪口は言えないんじゃないか」というところまでやる。そこまでやって初めて価値が発揮されると思います。やり過ぎくらいの価値の提供は、飲食業では特に重要です。なぜなら飲食業は「実体験」を提供するから。肌で感じてもらうサービスだからこそなんです。

――今後のサブスクリプションサービスの動向、期待することを教えてください。

品治氏:消費者の所有欲がなくなってきている今、飲食店においてサブスクリプションというのは、消費者の「経験欲」を満たしてくれるサービスだと思います。消費者は「ご飯を食べ、店舗の空間を楽しむ」という経験をしに行くことなので、飲食店におけるサブスクリプションは今後も増えると思いますね。

あとはテイクアウトできるサブスクのお店は最強です。先ほど言った予約や席に上限がないので。今後他の業態の飲食店が増えることは面白そうなので、期待しています。

Provisionが考える「飲食×サブスク」の新しい展開

――今後、Provisionでは新たに導入予定の施策やサービスはありますか?

品治氏:多店舗展開はしたいと思っています。ただ、同じお店が多店舗展開しても、結局はそのお店単位でお客様を抱えていくようになると思います。Aの店舗にはAの顧客。Bの店舗にはBの顧客。これは自分とお店との距離の問題が関わっていると思います。Aのお店のファンだからBに行くわけではなく、たまたま家の近くにAがあるからAに行くのであって、たとえその系列店のBが遠くにあってもBに行こうとは思わないですよね。
なので、私たちは近隣に展開していきたい。系列店双方の会員になってもらい、会社として顧客を抱え、顧客に楽しい情報を提供することで、会員様との新しい距離感を作り出せるのではないかと思っています。距離感というのは、新しく展開した店舗との結びつきです。
①既存の店舗と近い距離に、同じサブスクリプションのお店を展開する
②ご飯を食べる
③飲み直し・2軒目でそこに行く
③その日の食事代は全てタダ。
という一連の流れをサービスとして提供していきたいと思っています。

 


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店舗BGMアプリ「モンスター・チャンネル」が運営する店舗運営情報magazineの編集責任者。