レキシズルバーに学ぶ「面白い店舗でいこうよ」。【前編】

あなたがお店に行く理由ってなんですか?

「そこの商品・サービスが好きだから」…十分な理由です。でも明確に「ここだから行くんだ」なんて理由を与えてくれる店舗って少ないんじゃないでしょうか。
昔に比べ、確立した商品やサービスでの差別化が難しくなっている今、一風変わったBARが東京・御茶ノ水にあります。毎週水曜にだけオープンする店の名は「レキシズルバー」。
一見すると普通のBARと変わりない外観ですが、そこには忘れ去られた暖かく居心地のいい、コミュニケーションで賑わう空間が広がっていました。

今回は、「歴史」をコンセプトに多くのコンテンツを発信する株式會社 渡部商店に、少し真面目になりすぎている現代の店舗経営者へ向け、ちょっとだけ物申してもらいました。

好きなことして稼ぎましょうよ…必見です。

歴史をポップ化プロジェクト「レキシズル」

「歴史をポップに面白く発信したい」
そう語るのは株式會社 渡部商店の代表取締役 歴史クリエイター、渡部 麗(わたなべりょう)さん。またの名を「首脳」。2008年6月にオープンした「レキシズルバー」は、もともと先代のお母様が経営していたBARに「歴史」というコンセプトを加えた店舗。
まずは渡部さんに、レキシズル創設までの経緯をお聞きしました。

レキシズル創設秘話

――レキシズルの創設経緯を教えてください。
渡部 麗氏(以下・首脳):もともと渡部商店って広告屋なんです。2004~5年頃に『歴史街道』っていう雑誌の広告枠を売っていました。当時って歴史はコアな人しか楽しんでないコンテンツで、「もうちょっと一般層にも落とし込んでいきたいね」とその出版社の広告営業と一緒に話を進めて。そこで編集部を巻き込んでできたのがレキシズルなんです。

――あっ、もしかして「シズル」は広告用語の…?
首脳:そうそう、広告用語の「シズル感」ってあるじゃないですか、衝動喚起的な。歴史をもっと広く盛り上げる必要があるなと思っていたので、「歴史をシズルでレキシズル」。このプロジェクトがすべての始まりですね。
まあ、最初は外で何回かイベントを実施したんですけど、編集部というのはなかなか忙しくて数回もできなくて、あまりうまくいかなかったんです。尻すぼみになりそうでした。一方で、僕自身も広告代理店ビジネスに限界を感じていたので、自社のコンテンツを持とうと思い、レキシズルプロジェクトを渡部商店主導に切り替えました。

――そこでBARとの組み合わせですか
首脳:うん。じゃあまず何からやろうかと思った時に、歴史好きと話さないと始まらないだろうと。渡部商店は月から金曜にBARをオープンしていて、ちょうど水曜のバーテンダーが抜けることになったので、水曜だけは歴史好きが集まれるような「コンセプチュアルBAR」にしちゃおうと思って始めたのがレキシズルバーになります。それが2008年の6月ですね。

――BARが先行したビジネスだと思ってました
首脳:今でも変わらないですけど、最初は歴史を盛り上げるためのレキシズルっていうプロジェクトです。BARは後づけですね。
そしたら来たんですよ、2009年に、歴女ブームが!
メディアが歴女のいる場所を探すなか、ちょうどレキシズルバーが一足早くやってたんで、「王様のブランチ」が取材に来てくれました。その後はほぼ毎週、マスコミ・ネット含め取材が殺到しました。そこで広く周知されましたね。
なので最初はレキシズルというプロジェクトから始まりましたが、先に“歴史BAR”という存在がウケたんです(笑)。

レキシズルが目指すもの

――そもそもプロジェクトの目的とは?
首脳:歴史って面白いのに、どうしてもマニアック層のものというか、狭い範囲のものになっているのがもったいないなと思って、なんとか広げられないかなと。こちら(上図)はうちのビジョンになるんですけど、一番に掲げているのが歴史の「ポップ化」ですね。もっとこう、楽にというか。間口を広くというか。なのでレキシズルの1つのミッションとしては、歴史へのエントランスですね。結果、ポップ化していろんな人たちが集まってくれると2番の交流活性につながるので。それがレキシズルバーの役割ですよね。

今BARはオープンから12年目なんですけど、このレキシズルバーで出会って結婚したカップルが9組もいます。なかなかのヒット率ですよね(笑)
歴史好きが集まって、その歴史を語る人が面白くなれば、必然的に歴史好きも増えるかなと。

――とはいえビジョンに共感がもてなければ「コア層」ばかり集まりそうですね
首脳:そうそう、最初は結構来ましたよ、ヤバい人たち(笑)。
集まる人に関しては、オープン当初は戦いでしたね。どうしようもない方もいましたよ。他のお客さんに迷惑かけたり、知識を押しつけたりと。そういうのはユーザーの質といいますか、ポップ化を目指すにはお客さんの協力も必要なので、徹底しましたね。今は本当にいい人ばかり集まってくるようになりました。「知識論で話さない!」が暗黙のルールになってるんです。「これ知らないの?」を言わないように、と。

――新規のお客様への対応はどうしていたんですか?
首脳:新しく来た人には、歴史のどの辺に興味があるのか聞きます。その後うちのユーザーの中で話せる人、拾える人を探して、マッチングしちゃう。
なので歴史をあまり知らなくても一人ぼっちにはしないようにするし、少しでも興味がある人に来ていただきたい。
僕のなかではお客さんを二層に分けてるんです。コアな知識が好きな「コアーズ」と、あまり知識のない「ポッパー」。もともと来てくれる常連さんはうちのビジョンを理解してくれてるので、新規のお客さんでも入りやすいよう協力してくれます。客が勝手に動いてくれる仕組み化までもっていけたなと思います。「場の創造」ですね。

――場の創造…「コミュニティ形成」ですね。
首脳:そうですね。最初はコミュニティ的だったんですけど、そのコミュニティっていうのにも限界を感じていました。コミュニティって少人数から始まるじゃないですか。そうすると近づきすぎて仲が悪くなる。
やっぱり新規のお客さんをどう巻き込んでいくかですよね。コミュニティよりももう1つ上の段階にもっていきたい。なんとなく、コミュニティってものが僕の概念では狭く感じられるんです。なのでコミュニティビジネスというよりも、もう少し広く発信もするし、もっと広義に考えてるなあ。

――発信とは?
首脳:漫画誌で歴史のコラムを書いたり、SNSを活用したり。大前提として、歴史のポップ化を進めてます。そんなに難しく考えなくていいよ。どこか拾えるところあるからと。
実際、うちのユーザーにはコアーズもたくさんいますけどね。だけどそのアプローチはもっと柔らかくしようと。人づき合いの根本的なことですよね。そこは大事にしてます。うん、人ありき。最重要はコミュニケーション。

――コミュニケーションのなかで生まれたものや、新しい発見などはありましたか?
首脳:ひとつ確かなことは、歴史好きって結構保守的な方が多いんです。あまり積極的に自分から何かをやる人が少ない。歴史仕掛けて、歴史好き増やすぞ!的な。なので歴史を自分なりにインプットはしてるけど、アウトプットの機会がない。そうなると歴史のポップ化にはつながらないし、交流もできない。
なのでBARではプレゼンの機会を設けています。実際にそういう場を提供すると、意外とみんなやりたがるんです。そして意外と喋れる、能動的になれる。
そのプレゼンが、うちのビジョン3番目の「歴史プレゼンターの育成」ですね。

レキシズルに人が集まる理由は…

ん?お客さんがバーカウンターに立って何かをプレゼンしている。
なんでも、レキシズルバーではお客さんが好きな歴史を語る「数寄語り(すきがたり)」という機会を設けているとのこと。
普通じゃない。ここは本当にBARなのだろうかと言わんばかりの独特な雰囲気と不思議な空間。
記者が、お客さんにレキシズルバーについて聞いてみると…
――レキシズルバーについてどう思いますか?
お客さんA:こんな場所は今までなかった。歴史を好きに語れる場所は。
お客さんB:ここに来て人が変わった。育ててもらった。
お客さんC:ここでのプレゼンが一番緊張しますよ。

ちょっと首脳。これは一体なんですか!?
これがコミュニティを超えたレキシズルの本質、「育成」の場ということでしょうか!?

レキシズルは「超お客さん巻き込み型」ビジネスだ!!

――人の「育成」とは具体的に何をされているんですか?
首脳:BARでは毎週、21時から「数寄語り」という15分間のプレゼンを、ユーザーがバーカウンターに入って他のお客さんにするんです。これがある意味、新人発掘の場所。歴史好き・交流の醍醐味。素人プレゼンターの登竜門ですね。ここで上手いと、上に上がります。

――上に上がる…?
首脳:そう、「レキシズルバースペシャル」といって、毎月の最終水曜にBARの3階のイベントスペースもオープンしておこなう、60分のスライドを用いたプレゼン。そしてその最高峰が月一土曜に開催する「TERAKOYA」です。90分がっつりプレゼンします。もうここまで上がる人は歴史プレゼンのプロ。だからこのTERAKOYAでプレゼンする人は先生と呼ばれています。尊敬もされてるし。上昇志向のあるユーザーはTERAKOYAを目指すので、先生から技術を盗んだり。

――お客さん同士の関係とは思えないですね(笑)
首脳:面白いですよね。不思議なライバル関係もできてるんです。切磋琢磨して、大事なのは「緊張感」だと思ってます。大人になって緊張して発表することはなかなかないですし。その緊張が人を成長させるなって、見ていてすごく思います。だから僕は結構あおるタイプ(笑)。
人前で語ることから学ぶところが多いので。あとは全員がTERAKOYAを目指す必要もなくて、数寄語りだけやって満足する人もいますし。一切プレゼンはやらなくて1ユーザーとして参加する人も多いです。そこは自由でいいと思います。ただしスペシャルやTERAKOYAへ上がるのはシビアな世界ですよ。技術や人気がないと上がれませんから。

――お客さんと一緒に運営されている感じですね
首脳:はい。もう完全にお客さん巻き込み型のプロジェクトなんですよ。今のバーテンダーも最初はうちのユーザーでしたし。
レキシズルはプレゼンの場を提供し、プレゼンターは自身のために人を集める努力をする。なのでプレゼンターにはどんどんプレッシャーをかけます。だから、接客業っていう感じではないですね。僕のスタンスは、お客さんとフラットに、一緒に面白いことやるにはどうすればいいのかってことです。もちろんユーザー側からの声も上がってきますし。一応、僕が現在のフォーマットは作りましたけど、そのあとはユーザーと一緒に大きくしていった感じです。

――レキシズルバーやTERAKOYA、すべて渡部さんの計画通りですか
首脳:レキシズル創設時にこのビジョンが存在してたら、僕天才ですよ(笑)。
ビジョンなんかまったくなかった。やっていくごとにこうなっていった。そこは不思議なもんです。だからレキシズルはBtoCじゃなくて、BwithCなんです。お客さんと共創していく。巻き込みまくってますからね。
今では歴史をアウトプットしたい人が増えた。人のプレゼン見てるとやりたくなるんですよね。
まさに衝動喚起、「歴史」+「シズル」ですよ。

レキシズルはどこまで駆け上がるんだ

完全お客さん巻き込み型ビジネス。
確かにお酒を飲むだけ、暇つぶし。家でなんでも完結できる時代に、これだけの理由でわざわざお店に行く必要もないですよね。レキシズルが提供する明確な「お店に行く理由」は、ここでしか味わえない「緊張感」だったり、ここに行けば話が通じる仲間に会える喜びとか楽しいと思える「空間」にあるんですね。

うーん、しかしながらレキシズルは今後何を目指していくのでしょうか…?

「面白く」なきゃーね

――ズバリ、首脳の今後の目論見を教えてください。
首脳:僕としてはビジョンの3番、「育成」をもっとやっていくことですね。レキシズルって非常に私塾的になってきたんですよ。そこがいい意味でフォーマット化してきたので、今後は体系化したいと思ってます。まだ漠然と僕の脳内にあるレキシズルのメソッドを横展開できるような。僕が関わらなくても、このノウハウがシステム化することにちょっと興味が湧いてます。
昔はよくチェーン化しましょうっていう声もいただいてたんですけど、そこはやっぱり「人」が大事なんで。任せる人がいないと始まらないですよね。箱はいくらでもあるけど。それが勝手に動き出すような仕組みづくりを目指したいです。

――それはお店という形で?
首脳:もちろんお店もですが。僕個人としては企業のセミナーだったり、あと大学で講義とかもやってるんですけど。どんどん外に踏み出していきたいです。
レキシズルは、もうすでに立派な「育成」の場です。僕がいる必要もなくなってますし。疲れました(笑)。
今、僕はTERAKOYAの先生もやめて、プロデューサーの立場に徹しています。だから最近、すごくお客さんの視点に帰りたくなった。発信側から受信側にレキシズルではなっていたい。例えば、僕がネットで調べてここがヒットして、「行ってみたい」という新規客の感覚。まっさらな感覚を常にもつことを大事にしてます。やっぱり凝り固まってくるんで。

――何がそこまで首脳を動かすんですか
言っちゃえば「面白くない」んですよ(笑)。
歴史の講演って硬いので、ワクワク感が欲しいんです。食材のクオリティは高いのに、なんで料理になったら不味いんだってことですよね。その料理を美味しくしないといけないなと。アンチテーゼのパワーでやってきました。こんなに歴史って面白いのに。歴史好きがもっと世間に認められるような環境にしたかったんです。廃れようがないものだから。イノベーションを起こしたいと思ってやってきましたね。
10年以上やった結果、うちのスタイルはもう確立されているので、そこをどう展開していくか。もう僕一人の力では無理ですね。
だからこれからも外からレキシズルにどんどん人を流入させていきたい。

――ポップ化はまだ達成できていないと?
道半ばですね。昔に比べたらずいぶんよくなりましたけど、止まっちゃうとそこまでなので。新しい戦略を練る段階に入ったんです。もうビジョンは固まっていますし。

――明確なゴールってあるんですか
ないですよ(笑)。
そんなもん作ったら終わっちゃいますからね。そしてTERAKOYAの先生を降りたことで、見えたものってすごく大きいですね。プレゼンするという立場の緊張感のなかで生きてきて、それがここではなくなったんですから。
ただ来年、1月の初っ端に、バーで僕、数寄語りするんです。最近、ほかの新人のプレゼンを聞いていて「あれ、俺この人たちの気持ちになれてるのかな」と思って。これはおさらいをやらなきゃと。なので立ち返る時期に入った感はありますね。ユーザーに寄り添うというか。レキシズルの1ユーザーになりたい。
だから、うちみたいなところがもっとできて欲しいですし、ぜひ客として行ってみたい。
休まず走ってきたので、今は視野を広げていきたい。

歴史を純粋に楽しめたらいいなと思ってます。

(後編につづく)


 
今回、記者は、実際にレキシズルバーに伺い「数寄語り」を拝見してきました。
なんとも不思議な空間。
いい大人がいい大人に向け緊張しながら歴史をプレゼンする。

みんなが歴史という共通の言語で盛り上がる場には、我々大人がはるか彼方に忘れてきた人と人の「ぬくもり」が存在していました。

後編では歴史プレゼンの最高峰「TERAKOYA」に潜入します!!
首脳が物申す、今の店舗に足りないものとは?
お楽しみに…!