お店を経営する人にとって毎年欠かせない確定申告。1年を通しての収支を常に把握しておくことは難しく、それゆえ税理士に一任している人も多いかもしれませんが、個人で申告を行う事業経営者のため、今一度確定申告の流れや提出書類といった基本情報を押さえていきたいと思います。
1.申告する前に確認しておくべきこと
2.申告する際に必要な書類
3.コロナ禍における特別措置とe-Taxの推奨
4.確定申告の流れと計算方法
5.飲食店で発生する主な経費項目
6.不安なときは専門家などに相談を
申告する前に確認しておくべきこと
すでに確定申告を経験している人にとっては既知の内容ですが、初めて確定申告を行うという人は以下の点に注意して、毎年の確定申告に備えるようにしてください。
確定申告の期間
確定申告の受付期間は、おおむね2月中旬から3月中旬までの1か月間となります。2021年に行う前年(2020年、令和2年)分の確定申告の受付期間は2月16日から4月15日までです。また、個人事業者向けの消費税および地方消費税の申告期間については、3月31日までとなっています。
青色申告と白色申告の違い
確定申告には「青色申告」と「白色申告」の2種類が存在します。青色申告は「事業所得」または「不動産所得」「山林所得」のある個人事業主が対象のため、飲食店経営者は基本的に青色申告の対象となります。
青色申告のメリットは、最大65万円所得が軽減できる特別控除が受けられること。赤字を3年間繰り越しできることです。3年間の猶予期間があるため、スタートアップ時は赤字でも、数年後にお店が黒字化したときの税負担が軽減できます。また、夫婦でお店を切り盛りしている場合など、配偶者(家族)への給与を経費として計上できるため、ここも大きな節税ポイントとなります。
その反面、税務署へ提出する書類が多くその内容も煩雑なため、多くの事業主が頭を抱えるところです。日々の取引内容を記録した「帳簿」も必須なため、税理士に丸投げする経営者も多いのが現実です。
白色申告については、手続きを最大限に簡素化されている点が最大のメリットと言えるでしょう。収支内訳の欄に売上や経費などの総額を記入するだけなので、申告者の手を煩わせることなく申告が可能です。
一般的に白色申告は、会社から支払われる給与など主たる収入のある会社員などが、突発的に得た収入(株の配当金や相続により不動産を取得した場合など)に対して行う申告になります。白色申告については、青色申告で得られるような税制面の優遇措置はほぼ皆無で、この点は白色申告のデメリットと言えます。
申告する際に必要な書類
以下が確定申告に必要な書類となります。③の「確定申告書」については青色申告と白色申告とでは若干内容が異なりますが、ここでは青色申告を想定したケースを記します。
①本人確認書類
マイナンバーカードがある場合はマイナンバーカードを用意。持っていない場合は、マイナンバーの記載がある通知カード(または住民票)と、運転免許証やパスポートなどの身分証明書が必要です。
②印鑑
認印と口座振替の場合は銀行印も必要になります。ただし、シャチハタは不可です。
③確定申告書
「確定申告書(様式B)」は青色申告に必要な書類で、誰でも使用することができます。ただし、税制面での優遇措置が大きいこともあり、事前申請(「青色申告承認申請書」の提出)が必要です。新たにお店を開業した人、白色申告から青色申告に切り替える人はきちんと事前申請を済ませておきましょう。
④青色申告決算書
収入や売上原価、経費の内訳などの内容を、各項目ごとに従って記入する書類です。白色申告の「収支内訳書」に該当する書類ですが、より記載する項目が多い複雑な内容になっています。
⑤その他所得が証明できる書類
基本的には④の「青色申告決算書」で大丈夫ですが、65歳以上で年金を受給している人やほかに給与などの収入がある場合は源泉徴収票の原本も必要です。また、お店の移転などで不動産取引が発生した場合は、売買契約書や仲介手数料、印紙代の領収書も合わせて提出しましょう。
⑥控除を受けるための証明書類
⑦金融機関の口座番号
コロナ禍における特別措置とe-Taxの推奨
申告に必要な書類は、事業所が所在する地域の税務署に届け出ることになります。また全国の主要都市にある国税局でも可能です。
かねてから国税庁はオンラインによる確定申告(通称:e-Tax)を推奨していますが、新型コロナウイルスの感染拡大による3密を避ける目的から、可能な限りオンライン申請を選択した方がよさそうです。どうしても窓口申請したいという場合でも、コロナ禍で入場制限を設ける動きがあるため、必ず事前に所管の税務署へ入場方法(整理券の配布など)を確認してから来場するようにしてください。
同様に、確定申告受付期間内に各税務署で行われていた窓口相談にも制限がかかります。国税庁のホームページによると、入場時の検温、ソーシャルディスタンスの確保、追加の会場確保などあらゆるコロナ対策を実施していますが、これ以上感染拡大させないためにも、来場する場合は個人の徹底した感染対策と、国税庁によるガイドラインを遵守するよう努めてください。
確定申告の流れと計算方法
確定申告のフローはおおまかに以下4つの段階に分けて考えることができます。
①「所得」を算出する
お店の1年間の売上金額から経費をマイナスした金額(粗利)が「所得」となります。詳しくは次章で触れますが、飲食店では食材の購入費から人件費、光熱費、テナント料(家賃)、その他雑費などさまざまな経費が発生します。
②「課税所得」を算出する
課税所得とは、①で算出した所得金額に応じて、あらかじめ設定された所得税率を掛けて納める所得税額のベースとなる金額です。「195万円以下」から「4,000万円超」と金額に応じて7つに区分されます。
ここで、条件を満たせば所得から控除される「所得控除」があります。前述の青色申告特別控除(最大65万円)のほか、医療費控除、社会保険料控除などが対象となります。
③「所得税額」を算出する
②の課税所得に所定の所得税率を掛けて所得税額を確定します。課税所得の額が大きくなるほど所得税率もアップするため、儲かっている事業者ほど納める税金が高くなる仕組みです。
④「税額控除」を行う
課税所得に所得税率を掛けて算出された金額に応じて下表の金額の税額控除が受けられます。②で説明した「所得控除」とは異なり、所得税率を掛けた後の最終的な税額から直接控除するのが「税額控除」となります。
【所得税の速算表】
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
例えば「課税される所得金額」が7,000,000円の場合には、求める税額は次のようになります。
7,000,000円×0.23 – 636,000円= 974,000円
※ 平成25年から令和19年までの各年分の確定申告においては、所得税と復興特別所得税(原則としてその年分の基準所得税額の2.1%)を併せて申告・納付することとなります。
飲食店で発生する主な経費項目
飲食店を営むにあたり、以下のような経費が発生します。
仕入れ…飲食物の提供に必要な原材料費用
水道光熱費…飲食物を作るために生じた水道、電気、ガス代など
地代家賃…店舗の賃借で発生するテナント料
消耗品費…割り箸、ストロー、その他使い捨て容器などに関する費用
衛生費…洗剤、殺虫剤、制服のクリーニング代など、衛生上必要と認められる費用
給与賃金…アルバイトなど家族以外の人員を雇用する際にかかる人件費
福利厚生費用…従業員の健康保険料、雇用保険料、労働災害保険などの費用
減価償却費…高額の事業用資産を購入した場合、その費用を数年に分割して計上する費用
租税公課…店舗に関する固定資産税、事業用自動車の自動車税、収入印紙の購入費用など
損害保険料…店舗、厨房機器など事業用の資産に関する保険料
修繕費…店舗や厨房機器など備品類の修繕費用
不安なときは専門家などに相談を
確定申告は毎年のこととは言え、日々の帳簿の記入や書類作成はやはり煩雑です。確定申告の受付期間中、全国の税務署では専門スタッフによる相談窓口を設けているため、ぜひ活用したいところですが、新型コロナウイルスの問題から2021年は従来どおりのサポート態勢が約束されていません。
書類に不備があれば再作成、再提出の手間がかかることもあるので、便利な会計ソフトの使用や税理士への相談、依頼も視野に入れて、確定申告に臨むようにしてください。