令和元年10月1日、日本初の「食品ロス削減推進法」が施行されました。世界的にも食品ロスが課題となっている日本において、食品ロス削減に向けた取り組みは重要視されています。しかし飲食店を運営している方の中には、実際に削減を意識しつつも、具体的な対策まで落とし込めている方は少ないのではないでしょうか?
今回は、店舗における食品ロスの発生原因や削減による利益拡大の仕組、フードシェアリングサービスを含め解説します。
食品ロス削減推進法とは
食品ロスの背景を受け、令和元年5月24日に日本初となる「食品ロス削減推進法」が公布、同年10月1日から施行されています。正式名称は「食品ロスの削減の推進に関する法律」。食品ロスの削減の推進を国民運動と位置づけ、国が食品ロスに関する施策を総合的に推進することを定めました。
また、地方公共団体は国および他団体との連携を図りながら、地域の特性に合わせた施策の策定と実施するよう通知。事業者へは食品ロスの削減に積極的な取り組みを求め、消費者へも食品の購入や調理時に工夫するなど、自主的な取り組みを促しました。
今後具体策への法的拘束力が予測される食品ロスに関する取り組み。店舗単位での対策も求められるでしょう。
食品ロスの現状
平成30年、農林水産省と環境省による食品廃棄物等および食品ロス量の推計結果によれば、食品廃棄物等は約2,531万トン、そのうち食品ロスは約600万トンとなりました。この量は、国民一人が毎日お茶碗一杯分(約130g)のご飯を捨てていることになるそうです。
これは、食品ロス量の推計が開始された平成24年以来最小値。とはいえ日本の食料自給率は38%(令和元年度概算値)と、食料の多くを輸入に頼っている一方で、まだ食べられる食料を大量に捨てている事実は、食品ロスが国・国民にとって大きな問題であると認めざるを得ないでしょう。
食品ロスの発生理由
そもそも食品ロスは何が原因で起きてしまうのでしょうか?ここでは飲食店における食品ロスの原因3つを紹介します。
廃棄ロス
過剰な仕入れによる売れ残りや食べ残し、商品・食材管理があまく消費期限が切れてしまった食品など、本来は食べられるのに捨てられてしまうものをいいます。
オーバーポーションによるロス
飲食店における「ポーション」とは、店舗側が提供する1皿分の料理の分量を言います。事前に決めていたレシピの分量よりも多くなることを「オーバーポーション」と言い、原価が悪化するだけでなく、食べ残しによる食品ロスにもつながってしまいます。
人的ミスによる商品ロス
ホールスタッフによる注文時のオーダーミスや、提供する料理のミス、調理スタッフの調理ミス、食材管理のミスから起きる消費期限切れの食材発生など、店舗で働くスタッフによるヒューマンエラーが原因の食品ロスです。
以上3つが代表的な食品ロスの発生原因ですが、この他にも過剰サービスによるロスや理由不明のロスなど様々な原因が考えられます。自社・個人が運営する店舗の食品ロス発生原因を明確にし、適切な対策を心がけましょう。
食品ロスの軽減で利益が上がる仕組み
食品ロスを削減することは、店舗にとって多くのメリットがありますが、社会課題の解決はもちろん、店舗経営における利益の拡大にもつながります。ここでは、食品ロスの削減で拡大する利益の仕組みについて、「FLコスト」と「原価率」の観点から説明します。
FLコストとの関係
FLコスト(Food and Labor cost)とは、材料費と人件費の合計を表した、店舗にとってのコストをいいます。飲食店を経営するにあたり、特に大きなコストとして扱われる材料費と人件費をいかに削減するかが、店舗の利益に直結します。また、売り上げに対しどれだけの材料費と人件費がかかったのかを表す指標が「FL比率」です。一般的に、FL比率の平均値は55%〜65%とされており、50%以下であれば大きな利益を上げているといえます。個人店舗においては、売り上げやリソースから、人件費へのコストは容易に最適化できるでしょう。しかし最も意識すべきは材料費の削減です。その日提供した料理の量や、お客様の食べ残しから逆算し、食品ロスを最低限に止めることが、材料費の削減につながります。
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原価率との関係
原価率とは、売り上げに対する原価の比率です。簡単に説明すると、店舗で1つの料理を出す際に、その料理を作るためにかかった材料費の合計が占める数値をいいます。原価率を求める式は以下のようになります。
一般的に原価率の目安は約25%〜30%といわれていますが、売上原価が高くなるほど原価率は大きくなり、利益は少なくなります。そのため、店舗運営においては原価率をいかに下げるかが重要になります。また、原価率と共に注意したいのが「ロス率」です。ロス率とは、ロス高と売上高の差額を表します。そして、ロス高に含まれる要素としてあげられるのが食品ロスです。ロス率を求める式は以下のようになります。
例えばロス高が2500円、売上高が50000円の場合、「2500÷50000×100=5%」となります。一般的な飲食店の場合、ロス率は5%が目安です。利益を大きくするためには原価率の管理が重要ですが、食品ロスなどの無駄な経費をなくすことで、店舗の利益は更に拡大するのです。
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フードシェアリングサービスで食品ロス削減
ここまで食品ロスの種類や、削減のメリットを説明してきましたが、実際に店舗が食品ロスを減らすための対策として、フードシェアリングサービスがあげられます。フードシェアリングサービスとは、売れ残りや規格外で廃棄されてしまう商品を割安価格で提供するサービスです。店舗の原価率を抑制するだけでなく、新規顧客の販促ツールとしても活用できるでしょう。
ここでは、国内で注目されている代表的なフードシェアリングサービスを紹介します。
株式会社コークッキング「TABETE」
TABETEは平成30年スタートの国内初フードシェアリングサービス。飲食店側が廃棄予定の商品の在庫数や値段、引き取り時間をアプリに掲載し、周辺のユーザーが商品を購入する仕組みです。近隣の店舗を登録すれば、出品情報の通知を受けることもできます。対象地域は首都圏・各都市圏が中心で、1,525店舗の情報が掲載されています(令和3年4月現在)。飲食店とユーザーをつなぐアプリのほかに、規格外の農産物や在庫過多に困っている食品・食材を販売する直送サービス「TABETEレスキュー掲示板」も運営されています。
バリュードライバーズ株式会社「産直tabeloop」
令和2年から開始したBtoCのeコマース。もともとは生産者と飲食業を結ぶ食品ロス削減フードシェアリングプラットフォームでしたが、農林水産省が行うインターネット販売促進支援事業者として個人向け販売を開始しました。魅力は、ユーザーが会員登録料・送料とも負担する必要がなく現地の販売価格で購入できること。通常商品とともにお得な「ワケあり品」が出品されることもあり、豊かな自然の山の幸・海の幸をお値ごろに提供しています。
株式会社ビューティフルスマイル「ロスゼロ」
平成30年より、未利用原料や未利用食品をユーザーにつなぐことで食品ロスを削減するフードシェアリングサービス。製造や流通段階で行き場を失った余剰・規格外品食品を届けるBtoCのほか、未利用の原材料を使ってオリジナルの「アップサイクル食品」を自社製造し、DtoC(Direct-to-Consumer)も行っています。オンライン通販だけでなく、イベントの企画や会場での販売も特徴です。
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まとめ
食品ロス削減推進法の成立で、今後更に注目されるであろう食品ロス問題。最後に、この記事の内容をまとめてみます。
②飲食店における食品ロスの発生原因は、食材の管理不足やヒューマンエラーなど様々
③食品ロスが削減されれば、FLコスト・原価率は下がり利益につながる
④食品ロスの削減対策として、フードシェアリングサービスが注目される
食品ロス削減推進法が成立したからといって、実際に削減を実現するには店舗側の積極的な取り組みが欠かせません。徹底した食材管理や従業員教育によるヒューマンエラーの防止など、事前に食品ロスを防ぐことは可能です。今回紹介したフードシェアリングサービスを活用すれば、社会貢献だけでなく店舗の利益拡大にもつながるでしょう。まずは店舗の食品ロス発生原因を把握し、改善方法を検討してみてはいかがでしょうか。